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第7話
高速列車を下りて、借り上げたバスに乗り込み、一旦全員で宿に向かう。部屋の鍵をリュートが代表して受け取ると、ティルがどんな部屋なんだろうな、と言っていた。
部屋割りは基本的に班ごとである。女子は三階で、男子は二階。部屋の位置は角部屋だった。ひょっとして五聖家ということで配慮されたのかもしれない。別にいいのに。
部屋は修学旅行で使うにしては広い、立派な部屋だった。大きなベッドが二つ並んでいても狭くない。広い以外は、割と普通のホテルの部屋、と言う感じだ。アメニティが豊富だったが、リュートもティルもあまり興味がないのでそこは殆ど見なかった。
リュートはカーテンを開けて窓の外を見る。これから行く寺院地区が広がっている。このホテルは寺院地区の一角に建っているので、非常に眺めが良かった。
「ティル!ねえ!お寺!」
「テンション高いな。そんなに好きか?」
「うん!好き!」
満面の笑顔で答えると、何故だかティルが視線を逸らして蹲ったので、リュートは慌てて彼に駆け寄った。
「大丈夫?どこか具合が悪いの?」
「違う……悪いのは俺の頭だ……一発殴ってくれ」
「そんなことできないよ」
「俺、この調子で二泊三日耐えられるのか……?」
ぽそっとティルが零した言葉にリュートは首を傾げる。何か問題があるのだろうか。
よろよろと立ち上がるティルの身体を支えて、大丈夫?と再度尋ねる。ああ、何とか、と返ってきたので、一旦リュートは離れた。
「荷物置いたし、そろそろ外出る?」
「そうだな。財布とスマホと、あといくつか鞄に入れて、出るか」
旅行鞄の中から肩掛け鞄を取り出す。これもあの服を買いに行った後、修学旅行までの間にティルと買いに行ったものだ。鞄持ってるのかと尋ねられたので、近所の安価な洋品店で買ったやつなら、と言ったらすごい顔をされた。
準備ができたので、二人で部屋から出る。鍵をかけて、ホテルの廊下を歩き、外へ。きらっと眩しい光が目に入って、少し目を細める。
「いい天気だね」
「修学旅行日和だな」
「本当に。ね、俺すごく楽しみなんだ」
「俺もだよ」
顔を見合わせて、笑う。そうしていると横を同じ班の女子が通り過ぎていったので、リュートは慌てて呼び止めた。
「一緒に回らなくても、本当にいいの?」
「あ、本当にお構いなく!お二人で楽しんで下さい!」
「絶対邪魔はしませんので!」
女子二人は何故か親指をぐっとこちらに向けて、それから二人で仲良く去っていった。一応班行動は男女一緒にという決まりなのだが……まあいいか。自分もティルと回るつもりでスケジュール組んでることだし。
「行くか」
「うん」
ホテルのエントランス前から大きな道が伸びている。左右に町家が立ち並び、石畳の道に等間隔に風情のある街灯が置かれている。この道を中心に細い道が中に向かってあり、そちらに向かうと寺院群があるという。
リュートはティルと歩きながら、きょろきょろと町家を眺める。
「お昼どこにしようか?」
「そうだな……そこにするか?」
ティルが指さしたのは、和食の店。観光地用の入りやすい店構えだ。二人で暖簾を潜ると、既に何組か同じ学校の生徒が席に着いていた。なるほど、みんなここなのか。
店員に言われた席に座って、メニューを眺める。定食からコース、うどんやそばなどの麺類、親子丼などの丼もの、幅広く置いてある。和食の店というか、和食を取り扱っている店という感じだ。
「リュートは何食うんだ?」
「どうしようかなぁ。たくさん書いてあって迷うよね」
「俺はステーキ丼にするわ」
「何かティルっぽい」
ふふ、と笑うと、そうか?と首を傾げてティルが言う。ティルは大きなハンバーガーや肉の塊が似合うと思うのは、リュートの偏見だろうか。
「俺は肉吸いの定食にするよ」
「すっげえお前っぽい」
「どこが?」
「何か薄いとこ。出汁っぽいとこ」
「何それ」
気の抜けたことを話していると、ティルが店員を呼び止め、注文を入れる。しばらくお待ちください、と離れていく店員を途中まで見送って、リュートはメニューを机の端に立てかける。
「今日って何時までにホテル戻るんだっけか」
「十七時だよ。ホテルで夕食じゃなかった?」
「つーことはそんなに時間ねぇな」
「そのつもりだったから見て回るところは少なめにしておいたよね」
リュートが鞄から行程表を取り出す。ランチを十四時頃までに済ませて、その後三時間で寺院を巡ることにしてある。他の班は電車やバスに乗って少し遠くの大型ショッピングセンターに行くと言う話も聞いたが、ティルが、んなもん地元でも行けるだろと言ってくれたので、却下となった。
お待たせしました、と店員が二人の前に食事を置いて行く。
ティルのステーキ丼は立派な肉がこれでもかと乗ったボリュームのある丼もの、リュートのは白米と肉吸いのお椀の置かれた小ぢんまりとした定食。確かに個性出るな、とリュートは思った。
いただきます、と手を合わせて箸を手に取る。ティルは丼を持ち上げて、案外上品に食べている。もっとこう、かき込む感じなのかと思っていた。
リュートも肉吸いの皿を持ち上げてずずっと出汁を吸う。あったまる。一番好きなのは母の作った食事だが、たまにはこういうのも悪くない。
何となく雑談をしながら食べ進め、リュートの皿に食後のデザートの苺が二つ残る。どうしよう、お腹いっぱいだな、と思っていると、ティルが尋ねてきた。
「食べねぇの?」
「うーん、お腹いっぱいで」
「俺もらうよ」
「本当?」
リュートは苺のヘタを落とし、すっとティルの口元に苺を差し出した。
「はい」
「はい、じゃねーよ……」
片手で頭を押さえて、ティルが唸る。
「置いときゃ勝手に食べるんだが!?」
「え?だめ?」
「だめというか……」
ちら、とリュートの差し出した苺に目をやって、それから観念したように、口を開けて、かぷ、と苺を持っていくティル。
「何だ、食べるんじゃん」
「お前が差し出してきたんだろうが」
「じゃあもう一個、はい」
もう一度、苺を差し出す。今度はじっと苺を眺め、リュートに視線を戻す。何故かリュートを見たまま、口を開けて苺……と、リュートの指先を口に含む。すいっとティルの舌が苺だけ持って行って、指先を舐められる。
「ひゃ!」
「ぶっ!」
ティルの口から自分の指を引っこ抜き、真っ赤になってリュートは言った。
「何するの!」
「お前こそ何つー声出すんだ!」
二人で言うだけ言って、少し視線を逸らして呼吸を落ち着ける。指先に残る感触が生々しい。
(食べられるかと思った……)
じっと見据えられて、指先を捕らえられて、どうにかなるのかと思った。でも不思議と嫌ではなくて――
(あれ?)
自分の中にふっと浮かんだ何かを、一瞬で取りこぼす。ふと正面を見ると、ティルがどこか悪戯な笑みを浮かべていた。少しの間それを見ていると、ふいっと視線を逸らすティル。
「店、出るか」
と、言われたので、リュートは慌てて席を立つ。会計を済ませ、あれは何だったのだろうかと、店を振り返って、少しの間眺めた。
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