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第8話

寺社巡りは楽しかった。元々古い建築物には興味があるし、家族に渡すお守りも買えた。何枚かティルと一緒に写真も撮れたし、大変満足である。帰り道、黄昏時を彩る街灯の明かりが綺麗で、思わず見惚れたら、ティルからお前のが綺麗だろ、と割と真顔で言われて驚いた。急にそんなこと言われたら、びっくりして心臓が揺れてしまう。 最近こんなことばかりだ。友達って、こんなに心が忙しいものなのだろうか。でも本当に、嫌な忙しさではない。何ならもっと、と求めてやまないものでもある。 リュートは、友達が欲しいと思ったことがない。少なくとも中二から、今までずっと。最低限の人付き合いはする。ただそれは社会生活を送る上で摩擦を起こさないための必要最低限。薄っすら微笑んでそこに立っていれば、後は勝手に誰かがリュートの気持ちを推察して、それを正しいものと扱って、通り過ぎていく。それでいいと思っていた。 ティルは違う。 万華鏡のように気持ちがころころと色を変える。鮮やかなビーズや色紙の破片が形を変えるように、リュートの心も変わっていく。それを、心地いいと思っている。ティルになら、自分の全てを暴かれても怖くない。 これが友情なのだろうか。だが、それも違う気がする。だって、本当に友情だけなら、こんなに彼に触れたいと思わないと思うから。 「風呂行くか」 夜の寺院地区の明かりを眺めていたリュートの元に、ティルがやって来てタオルを見せる。もうそんな時間かと思いながら、リュートは旅行鞄に近寄り、風呂セット一式を持ち出す。 「お前、シャンプーとトリートメントはいいの使ってんのな」 「そうなの?これ母さんが使いなさいって」 「……」 風呂セットの中に入っているそれは旅行サイズのシャンプーとトリートメント。美容院で買ったと聞いたような、聞いてないような。 「俺一回使って見たかったんだが、ちょっともらってもいいか?」 「いいよ、使い切りだから残さなくていいって言ってたし」 エレベーターで最上階へ。大浴場と書かれた札を横目で見つつ、男湯の方へ進む。一応、他の客に配慮して風呂の時間は区切られている。脱衣所に他の生徒の姿はなかった。 「人少ないね」 「夕飯の割とすぐ後だしな。人がいない方が広々使えていいんじゃね?」 「それもそうかも」 棚に自分の荷物を入れて、服を脱いでいく。ラフなTシャツとジャージを棚に押し込んでいると、ティルがこちらを見て固まっていた。 「……どうしたの?服脱がないと入れないよ」 「……いや、わかってたんだ。こうなるって。わかってたんだが、破壊力が……」 「はあ?」 何だか待っていても仕方がなさそうなので、先行くね、とリュートはすたすたと浴場に向かう。ティルは本当にどうしてしまったのだろうか。時々ああやって固まったり蹲ったり。やはり体調が優れないのかもしれない。風呂から上がったら直ぐに寝るように伝えよう。 洗い場の椅子に座って、広い鏡に自分の姿を映す。色素の薄い肌がそこに映って、やがて湯気に消えていく。 ざばざばとシャワーを出して、身体を洗おうかとしたところでティルがやって来る。しっかり前を隠して、そそくさとリュートの横に座った。 「……ティルって恥ずかしがり屋さんだったんだね」 「何をどうしたらその結論になるんだ」 膝の上にしっかりタオルをかけたまま、ティルもシャワーを捻る。逞しい二の腕、広い肩、リュートにはないもの。素直に羨ましいなと思う。すっと手を伸ばして、太い二の腕に手を添わす。 「おい」 「ティルは大きいよね、いいなぁ」 「いや」 「肩も広いし。触ってもいい?」 「あの」 「うわ、肩幅すごいね。辞書みたいに分厚い」 「……もう好きにしてくれ」 ぺたぺたと触るだけ触って、ありがと、と告げるとティルは溜息を返した。 その後は身体を洗って、髪を洗って、一通り全部済んだ所で大浴場に入る。リュートの他には数人の泊り客のみで、静かなものである。 お湯に鼻まで浸かって、髪をお湯に踊らせる。ゆらゆらと灰金の髪が流れる砂金のように揺れる。ああ、気持ちいい。このまま寝たい。 「沈むぞ」 ティルが言いながら横に座る。もうタオルで前を隠していない。お湯にタオル入れたら駄目だもんな、と思いつつ、リュートは顔をお湯から出した。 「ティルからいい匂いがする」 「お前の使ってるシャンプーだぞ」 「そっか、同じ匂いだね」 「……そういやそうか」 おそろい、と小さく呟いて、リュートは笑う。そんなことが嬉しくて。彼が、自分と同じ匂いでいることが……ああ、まただ。言葉にならない。どうしていつも、この気持ちを言葉にしようとすると、文字が消えてしまうのだろう。 と、ティルがリュートの肩を引き寄せる。あ、と思ったときにはすっぽりと彼の腕の中に収まっていた。ティルを見ると、じわりと汗を浮かべた彼が、何だ?と言っていた。 「ううん……熱いかも」 「そのまま溶けておけばいいだろ。拾ってやるから」 「そういうのじゃないよ。もう」 凭れた彼の胸に、そっと頬擦りした。

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