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第24話
リュートは憂鬱だった。ティルに会うのは気が引ける。
付き合うことになってから、二人で登校しようと決めた。だから今朝も、母に見送られて家を出て、待ち合わせ場所の公園に向かう。大体いつもリュートの方が早く着いて、ブランコに腰かけて待っている。
いつもは早く会いたいな、と思う所だが、今日は会ったらどうやって見合いの話をしようかと延々と悩んでいる。そしてできれば言いたくないなとも。
今日もブランコに腰かけてティルを待つ。何となくブランコをゆらゆらと漕ぎながら待っていると、ティルが、よ、と手を挙げてリュートの方に駆けてきた。
「おはよ」
「おはよう」
そう言って、屈んだティルとキスをする。毎朝決まった、いつものこと。
「どうした、何か元気ないな」
夏休みから学園祭の出来事があったせいか、ティルはリュートの変化に非常に聡い。今日も確かに悩んではいたが、そんなに顔に出ているつもりはなかった。
「何で?」
試しにそう問いかけてみると、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「見たらわかるよ。お前のことだから」
「ティル……」
さり気ない言葉にも、深い愛を感じて胸が熱くなる。その度に心に僅かに広がる黒いものを消し去ることができて、ティルの言葉はやっぱり俺の朝陽なんだなと実感する。
「で、どうした?学校行きながら、話聞くぞ?」
「うん……」
ブランコから立ち上がって、二人で並んで歩きだす。学校までは二十分ほど。小さく嘆息してから、リュートは意を決して話し出した。
「その……」
「ああ」
「お見合い、しなきゃいけなくなって」
横からばさっと音がした。立ち止まったティルが鞄を落とした音だ。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、リュートは落ちた鞄を拾って、ティルに差し出す。条件反射のように受け取ったティルが、わなわなと唇を震わせながら、言った。
「お前……マジで?」
「父さんの仕事の関係で、どうしても見合いの席だけは断れなくて」
「俺らみたいな人間はそういうこともあるが……」
「もちろん、お断りするよ。ティルがいるもの。俺には不必要な見合いなんだ。でも父さんの顔も立てなきゃいけなくて……」
尻すぼみになる言葉。ティルはずっと黙っている。飲み込める話ではないだろう。逆の立場だったら絶対飲み込めない。それがわかるから、痛い。
「……遅刻するし、取り敢えず歩くか」
ティルがそう言って、再び歩き出す。その間も終始無言で、もういっそ早く学校に着けばいいのにと思う。
「ティル、あの」
「リュート」
言葉が重なる。あ……と小さく零すと、先、話せよ、とティルが言う。
「俺、本当に嫌なんだ。行きたくないって父さんにも言った。でも……」
「……わかってる。お前の気持ちを疑ってるんじゃねぇよ」
「ティル」
「……俺が、心狭いだけだ。あんま気にすんな」
ぽん、といつものように頭に手を置いて、そっと撫でる。だが、見上げたティルの顔は本当に落ち込んでいて、傷付いていて。
「……ごめんなさい」
ぽつりと呟くと、ティルがぎょっとしたように目を見開いて、違う!と叫んだ。
「悪ぃ、そんなふうに思わせるつもりじゃなかったんだ」
「でも」
「……いや、俺たちって、そういう身分なんだなって、思っただけなんだ」
ティルがそう言って、鞄を担ぎ直す。
「お前は五聖家だし、俺は商会の跡取りだ。家を存続させるのは、役目の一つだ」
「……うん」
「存続には子供が必要だ。そりゃあ当然、婚約、結婚、そういう話は出る」
「……」
聞きたくなかった。薄々考えてはいたが、直面したくなくて。
「そういう、身分なんだ。俺たちは。恋愛すらも自由にはならない、そういうな」
「でも俺はティルが好きだ。愛してる。他の人を選ぶなんて」
思った以上に強い声が出た。ティルが驚いている。珍しいな、なんて言っていて。
「……俺も同じだよ。今更女宛がわれたって、心が動くかよ」
「じゃあそんなこと言わないで――役目だなんて、俺は認めない」
リュートが強く告げると、ティルは少しの間沈黙して、ふっと視線をリュートから外した。
「もう校門の前だ。行こうぜ」
話を露骨に逸らして、ティルはリュートの数歩先を、歩いて行った。
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