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第26話

LINEは既読がついただけで、特に返事は無かった。日付が変わるまで布団でスマホを握り締めてみたのだが、来なかった。きっと、でも……だって……と思考がぐるぐるしているに違いない。だから返事がないことを咎めるつもりはない。ただ、ティルはそういう所可愛いんだよなと思う。 「行ってらっしゃい」 「行ってきます」 「ちゃんと、お話してくるのよ」 「うん」 母が手を振ってくれたので、それに手を振り返して、いつもの公園に向かう。ただ、いつもの時間より早く家を出た。昨日のティルへのLINEでも、それは伝えてある。少し長い話になるだろうから、余裕を持っておきたい。 公園に着くと、ブランコにティルが座っていた。ふう、と小さく息を吐いて、よし、と意気込んでから公園に入る。ざりっと砂利の音がする。ブランコの揺れる金属の軋む音。今日は少し、風が強い。 「ティル」 「……リュート」 あまり元気のなさそうなティルに苦笑いして、ふと彼の手元を見ると。 「……花?」 「花占いしてた」 「え?」 ごつい高校生が花占い?何の冗談だろうと思って首を傾げると、ティルは大きく嘆息した。 「決心できなくてな。お前に会うの」 「それで花占い……?会う、会わない、って?」 「……駄目か?」 「駄目じゃないよ。それで、ティルは会うことに決めたの?」 「そうだな。ブランコ、座れよ」 ティルに促されて、リュートもブランコに腰かける。膝の上に鞄を置いて、ティルの方を見る。少し疲れた様子の彼を見て、一体何をそんなに悩んだのだろうかと思う。 だって、自分たちが付き合い続け、生涯を共にすると言うのなら、世間がなんだろうと家がなんだろうと、立ち向かい続けなければならないのだ。悩むことでは無いと、リュートは考えている。だが、ティルはそうではない。だからその話を、聞かなければいけない。 「……別れるのか?」 そう思っていたら、ティルがとんでもないことを言いだした。何だって? 「何言ってるの」 「……お前には、アルトフェルト家の嫡男として、その見合いに行く必要がある。そのお嬢さんとかは知らんが、最終的に家を継ぐために、女と結婚して、子孫を残すのが筋だ」 「いや、ちょっと待って」 「……俺は、いないほうがいい」 「待ってって!」 一足飛びに前に行くどころか斜め後ろに吹っ飛んでいくティルを引き留める。何を言っているの、本当に。別れるって何?俺はそんな話をしに来たんじゃない。 「いないほうがいいわけないじゃない!俺が愛しているのはティルなのに!」 「忘れろ」 「忘れられるわけないでしょ!?あんな……セックス寸前までしておいて、何を!」 「……それは悪かった。俺の自制が甘かったから」 「俺だってそれを望んだんだよ!」 「んな過去、見合い相手に話すなよ。気持ち悪いって思われる」 「っ!ティル!」 この人は何を言っているのだろうか。何で離れようとするの? 「俺のことが嫌いなの?」 「違う。だが、家のことと立場を考えたら、愛だの何だのの前に通すべき筋があるって話だ」 「おかしいよそんなの!何で好きなら好きでいたら駄目なの!?」 「お前も俺も、良家の嫡男だからだ」 はあっと息を吸い込んだのに、喉の奥で詰まる。怒りでどうにかなりそうだった。こんなに何かに激情を抱くのは初めてかもしれない。そのくらい、リュートはティルの言葉にどうしようもなくやり場もない、酷い感情を抱いた。 「……俺は、そんな話をしに来たんじゃない」 静かに告げる。 「ティルが俺といる未来を望んでくれるなら、そのためにどうしたらいいのか、考えたかった」 「リュート」 「でもティルは、それを考えるより、家の体面を選ぶんだね」 「……」 「わかったよ。俺だけが、愛していたみたいだ」 ブランコから立ち上がる。鞄を持って、姿勢を正して。 不意に、強い風が吹いた。ブランコの金属が軋む音と一緒に、リュートの前髪が風の前に嬲られた。ティルの顔が、見えない。 「さよなら」 そう言って、公園を出る。不思議と、泣くことはなかった。

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