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第34話
「ういんたーすぽーつ?」
正月から数日経って。初詣デートの帰りにティルの家に寄った。冬休みの宿題はお互い既に終わっているので、後は二人の時間を過ごすだけだ。
出された香り高いアールグレイを飲み込むと、鼻を通るベルガモット。ティルの家には元々コーヒーしか置いていなかったのを、リュートが来るようになったので紅茶も置くことになったと聞いた。毎回有名な店の茶葉を使ってくれるので、リュートとしてはありがたい話だ。
閑話休題。
ティルがそうそう、と頷いている。リュートは何のことを言っているのかわからなくて、首を傾げた。
「どういうこと?」
「ノイズシュタインで会員になってるリゾートがあるんだよ。そこにスキーかスノボか、しに行こうぜって話」
「でも俺、ソリにしか乗れないよ」
「……マジで?したことないんか」
「ないよ。だって平地は雪降らないし、うちの両親もそういうの興味ないし」
「マジかー……」
どこかがっかりしたように、ティルがソファの背凭れに身体を預ける。何だか申し訳ない気持ちになりながら、リュートは言った。
「麓でティルを待ってるのでよければ、行こう?」
「……だな。麓でお前が待ってるのも、可愛いしアリか」
「何それ」
ふふ、とリュートが笑う。じゃあいつにする?と言う話を詰めて、冬休みが終わる直前の土日に行くことにした。ウェアや道具は全部現地にあるから手ぶらで来てもいいとのこと。お金持ちって至れり尽くせりなんだなと、自分のことを棚に上げて思う。
当日。
家の前にいつものティルの家の車が停まる。母が一緒に玄関先まで出てきてその車を見ていると、後部座席からティルが下りてきた。
「おはようございます」
「おはよう、ティル君。いつも悪いわね、ご厄介になってしまって」
「いえ、お構いなく。俺がしたいだけなんで」
照れくさそうに笑いながら、ティルが言う。よそ行きの顔してるなぁとリュートは思った。海に行ったときも同じことを考えたかもしれない。
「リュート、迷惑をかけないようにね」
「はぁい」
「行くか」
ティルが後部座席の扉を開けてくれる。乗り込んで、扉が閉まって、窓を開ける。母が穏やかに微笑んで、そこに立っていた。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「行ってきます」
母と手を振り合って、車窓の景色に溶けていく。冬の冷たい空気が、車内の暖房と混ざり合う。寒さに身震いして、慌てて窓を閉めた。
相変わらずティルの家の車は運転席と後部座席の間に仕切りがある。ティルはカーテンを閉めるし、俺は到着するまで理性を維持できるのだろうかと不安になる。
「あんまり山とか行かねーの?」
ティルに問いかけられて、リュートは少し考える。
「行かないかも。うち、あんまり遠出しないんだよね。ノアいるし」
「ああ……猫がいるもんな。世話の都合もあるか」
まあノアは賢い猫なので、人間がしばらくいなくても気にせずやっていくだろうが。人間の方が、ノアを置いて行くことに対して心配だし、不安なのだ。
「この国の山で雪が降ってることも、天気予報でしか知らないから」
「行かなきゃそうかもな。結構質のいい雪が降るんだ」
「雪質に良い悪いがあるの?」
「まあな。俺はあんまり気にして滑ったことないけど」
「ティルは、雪山で何するの?」
そうリュートが言うと、肩をずっこけさせたティルが、呆れたように返事をする。
「スキーかスノボかに決まってんだろ。何すると思ってんだ」
「雪だるま作るとか。雪合戦するとか」
「ガキの頃はしたかもしれんが、今は普通に滑ってんぞ」
へえ、と言いながら、あまり多くない記憶を引っ張り出して、ティルがスノボしている所を何となく想像してみる。ウェアは黒色だろうか。ゴーグルはつけるのかな。
「……頬緩んでんぞ。何考えてんだ?」
ティルが優しく問いかける。リュートはふにゃりと笑って、言った。
「ティルのこと。どんな感じでスノボしてるのかなって」
「可愛い奴だな。どうせ見た方が早いのに」
「ふふ。考えちゃった」
そう言うと、ティルが肩に腕を伸ばして、抱き寄せる。ほら、やっぱりこうなる。
「どうする?」
尋ねられても。もう期待して身体は反応しているし、何もされない方が辛い。でも雪山まで何時間もかかるわけじゃないし、中途半端なのも辛い。
「どうしよう」
「なんじゃそら」
「触れて欲しいけど、中途半端なのは嫌だなって」
「まぁな。車の中だし、いくら仕切り板ついててもな。お前悦くなると声結構出すし」
「ええ?そうなの?」
されているときなんて意識も理性もどこか遠くにあるものだから、自分がどんな状態かなんて把握しきれない。リュートを見ているティルがそう言うのなら、そうなのだろう。
だとすると恥ずかしい。頬が熱くなる。そんなはしたない声を、ティルの部屋で上げているなんて。使用人さんに聞こえているのでは?いくら部屋周辺に近寄らないと言っても、どこまで聞こえているのかわからないし。
「どうした」
「いや……今度から静かにします」
「何でだよ!?」
「だってどこまで聞かれてるかわかんないじゃない。もう俺使用人の皆さんの前に出られないよ」
つくづく深刻そうに言うと、ティルがぐっと肩を強く抱いた。
「使用人は聞いてねぇよ。前にも言ったろ」
「なんで言い切れるの」
「リュートが来たら最低限の人数残して休憩取らせて屋敷から出て行ってもらってるし」
「そうなの!?」
初耳である。
「お前の可愛い声を第三者に聞かせるわけにいかねーしな」
ティルが、そっとリュートの耳元で囁く。背筋を駆け上がる甘い感触に、腰が疼く。
「もう。そういうこと言うし、するし。俺我慢する気でいたのに」
「我慢させるのは俺が嫌だ」
「何それ」
「あー。悩むなぁ。今度防音性能の高い車一台買うか」
「何のために?」
「お前の悦がり声のために」
「お金の無駄遣いだよ……」
心底呆れたようにリュートは苦笑いして、ティルの身体に頭を凭れさせた。
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