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Chapter10
ーーまただわ。
沙月はキャンパス内の図書館にアッシュの髪を見つけて足を止めた。
ーーまた少し痩せたみたい。
長谷川紫音
キャンパス内でその名を知らない人はいないくらい綺麗な人。
飲み会には絶対に来ない高嶺の花。
誰も声をかけられないくらい
高飛車だって噂だけど...。
ーーでももう限界ね。
沙月は角の机に突っ伏している紫音の肩に手を伸ばした。
ーーー
「長谷川君。」
肩を叩かれた紫音は、ゆっくりと瞼を開けて目線だけこちらへ向けた。
「......誰。」
ーー......!!
沙月は咄嗟に口元を押さえた。
痩せた頬。
血の通わない唇。
何も映さない瞳。
「......。」
......もっと、
早くに声をかけるべきだった。
沙月が、瞬間的にそう後悔する程
彼の顔は憔悴しきっていた。
焦点の定まらない瞳は気怠そうに再び閉じていく。
沙月は骨張った肩に手を置き
小さく揺すりながらもう一度紫音に声をかけた。
「ねぇ......ちゃんとご飯の味してる?」
「......!」
サッと再び紫音の瞼が開く。
その目はしっかりと沙月を映していた。
「......本郷?」
「あら、私の名前覚えてくれてたのね?」
「......ゼミ同じじゃん。」
沙月はふふっと笑うと
「ねぇ...ご飯食べれてる?」
と、もう一度たずね直した。
「......食べてる。」
彼はしばらく黙った後
小さく答えてまた力無く机に伏せた。
「......。」
沙月は少し考えて眉間に皺を寄せると
「長谷川君、ちょっとごめん!」
と言い、伏せている彼の顔をグイッと持ち上げて下瞼を下げた。
「ひっどい!真っ白じゃない!」
「......ッ!?」
紫音は呆気にとられて目を見開いた。
沙月はゆっくりと手を離すと
紫音から目を離さないようにして
隣の席に腰をかけた。
「......ごめんなさい。
余計なお世話かもしれないけど
もう見てられなかったの。」
紫音は、彼女の真っ直ぐな瞳から
目を逸らせないでいた。
「......。」
「......水分は......摂れてる?」
「......何とか。」
「嘔吐はしてない?」
「......昨日、一回だけ。」
「食べると気持ち悪い?」
「......うん。」
「病院は行けそう?」
「......行きたくない。」
「分かった。」
そこまできくと沙月は立ち上がり
「長谷川君、立てる?」
と言って紫音の脇へ手を添えた。
「医務室行こう。」
ぐっと紫音の脇に力が加えられる。
一晩中歩き通した紫音の足は
笑えるほど震えていた。
沙月にもたれるように
まだ人気のまばらなキャンパスを歩く。
触れている沙月の手が
泣けるほど温かかった。
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