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Chapter11
医務室に着くと
医務室には準備中の看板がぶら下げてあった。
「やだぁ、あと10分!?」
そう言いつつ沙月は迷わず
医務室のドアを叩く。
中から顔を覗かせた看護師は
紫音の顔色を見て
「すぐ入って。」と中へ通した。
「血圧......上が80切ってるわね。
めまい酷いでしょう。よく歩いて来たわね。」
看護師は短くそう言うと
「悪いんだけど、
これから会議で空けなきゃいけないの。
長谷川君の様子見ててもらってもいい?
何かあったら本棟の第二会議室まで連絡ちょうだい。」
と言って沙月に経口補水液を手渡した。
「もちろんです。」
沙月は即答すると
経口補水液を受け取り
ベッドのカーテンを閉めた。
看護師が出ていくと、
室内はつんと静かになった。
「......。」
ベッドに体を沈めた紫音は
幾分か呼吸が落ち着いたように見える。
沙月はゆっくりとベッドの脇に腰をかけ、手渡された経口補水液の蓋を開けると紫音に手渡した。
「飲める?」
「......うん。」
紫音はほんの少し経口補水液を口に含むと
「甘い」と呟いた。
沙月は
「そう。」と微笑む。
紫音はもう一口含んで
ゆっくり飲み下した。
沙月も自身のバッグから小さなステンレスボトルを取り出して一口飲むと、紫音の浮いた鎖骨と削げた頬に目を向けた。
ーー......一体何があったというの?
落ち窪んだ瞼でゆっくり瞬きをする紫音は、とても高飛車には見えなかった。
「ねぇ長谷川君。」
「......?」
紫音は少しだけこちらを向いた。
「朝の散歩って気持ちいいのよ。
一緒に行かない?」
彼は面食らった様に2つ瞬きをする。
「あぁ、まだ散歩は無理よね。
じゃドライブ行こうよ!」
「......え??」
「決まり! 明日8時に迎えに行くわ!」
「ちょっ......まっ...!」
「何処に行きたい?」
と詰め寄ると紫音は呆気に取られながら
「悪いって。」と困惑した顔をした。
「いいから! 行きたい所......ある?」
沙月は構わず身を乗り出した。
紫音は困った顔で視線を彷徨わせると、
小さくため息を吐く。
ーーちょっと無理させすぎた?
血圧80ないんだものね...。
と沙月が少し弱気になった所で
「......海、かな。」と力無い答えが返って来た。
「海......好きなの?」
沙月は、視線を逸らした紫音の表情が少し緩んでいる事に安心しながら、椅子に座り直した。
「地元が海辺だから。」
「......海行くと落ち着く。」と小さく呟いた彼の目はゆっくり眠そうに瞬きを始めていた。
くあっと欠伸を噛み殺している。
「......よし! じゃぁ海ね!」
沙月がそう言い終わると、
紫音は目を閉じてしまった。
欠伸をふぁっとして、涙を指先で払っている紫音は「高嶺の花」でも「高飛車」でもない、ただの眠そうな学生でしかなかった。
ーーおやすみ。
沙月が心の中で呟くと
「......ありがとう。」
と微かに紫音の唇が動いた。
布団が規則正しくゆっくり上下して、紫音が眠ってしまった事を確認すると、沙月は看護師のデスクから一枚メモ用紙を失敬して『お昼にまた来るね』と書き残して経口補水液のボトルの下に挟んだ。
そっとカーテンを閉め医務室を後にすると、
沙月は大きく息をした。
「あー緊張した!」
誰も居ない廊下で思いっきり伸びをする。
「やっぱ美人だわー!」
そういうと少しだけ振り返って
「......でも、思ったより可愛い所あるのね。」
ーー私の名前も覚えてたし!
と微笑んだ。
沙月は伸びをしたまま窓の外を見た。
早朝にもかかわらずキャンパスには学生が集まり始めている。
明日は学園祭。
準備に追われる学生達を尻目に
沙月は足早に廊下を歩いて行った。
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