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Chapter13

気が付いたら泣いていた。 寝たまま泣いていたらしい。 胸に重たい物が乗っていたような名残があって、何故だか悲しくて堪らなかった。 「......?」 紫音は訳がわからぬまま 濡れた頬を拭うと 目を擦って窓の外を見た。 「......!」 窓の外を見た途端 紫音は引き寄せられるように 車のドアを開けた。 ざぁっと冷たい潮風が吹き込んで 潮の香りが胸いっぱいに広がる。 目の前には一面に海が広がっていた。 「おーーい! 長谷川くーーん!!」 海岸から沙月が叫んでいる。 彼女は自分のブーツを手にぶら下げて 大きく手を振っていた。 「エンジン切って来てーー!!」 彼女は無邪気に飛び跳ねる。 紫音は自動車のエンジンを切って鍵をジャケットのポケットに突っ込むと、波の音に誘われるままに海岸へ足を運んだ。 風は冷たく夏のように華やかな入道雲はなかったが、よく晴れて眩しいほどに波は輝いている。 紫音は波際に吸い寄せられると ゆっくり靴を脱いで砂の感触を確かめた。 すると、 驚くほど冷たい砂と海水が 足元をさらっていく。 ザザッと波が寄せた。      『しーちゃん!』 「......ッ!!」 紫音は弾かれたように振り返った。 そこにはキョトンと首を傾げる沙月が 「長谷川君?」とこちらへ足を運んでいる。 ザザッと波が遠くへ引いて行く。 「......。」 「ねぇ! 笑っちゃうくらい さっぶいね!!」 沙月は上着を抱き寄せて笑った。 ウルフカットの髪の毛はボサボサに 風にさらわれている。 紫音は「...そうだね」と頷いて目を細めた。 まだ、胸の奥にチリチリとしたものが燻っている。 「気分少しは晴れたー!?」 沙月は海の方を向いて叫んだ。 「......。」 紫音は言葉にして答えることが出来なかったが、小さく頷いた。 波は全てを飲み込むかのように引いては、思い返すように寄せている。 紫音はただそれを眺めていた。 そうして、しばらく風に吹かれてから 波打ち際で波と戦っている沙月に声をかけた。 「......寒いから、車に戻ろう。」 ーーー 2人は車に戻ると砂まみれの足を払い車内へ乗り込んだ。 「ひゃー! 寒かったぁ!」 沙月はカラカラと笑いながらエンジンをかけて暖房を全開にした。 「ごめん、 俺が海なんて言ったから...。」 紫音は乱れた髪の毛を掻き上げながら 沙月に視線を向けた。 「......へっちゅんッ!」 「うわっ。本郷大丈夫?」 紫音は慌てて自分にかけてあった ブランケットを沙月に渡した。 「へーきへーき!」 「これは長谷川君が使ってて!」と沙月はブランケットを紫音の膝にかけた。 「......本郷。」 「沙月でいいわ。」 「......沙月?」 「はい?」 「......ありがとう。」 紫音は沙月の方を向いて微笑んだ。 「......こりゃぁ、いいもん貰ったわね。」 「......?」 「ふふ、いいえ。 長谷川君が少しでも元気になってくれたら、それでいいわ。」 「......紫音でいい。」 「!」 「長谷川君て、こそばゆいから。 紫音て呼んで。」 そういうと紫音はブランケットを引き寄せて目を閉じた。 「......分かったわ、紫音。」 沙月はにっこり微笑んでから車を発進させた。 紫音はしばらくブランケットの中で身を縮めていたが、車内が暖まる頃にそのまま眠りに落ちてしまった。 「心がよっぽど疲れてるのね...。」 沙月はふぁっと欠伸をすると、車の速度をゆっくりにした。 少しでも長く彼が眠れますように。 ベージュの軽自動車はゆっくりと走り進み、学園祭で賑わうキャンパスを横切る。 楽しそうな熱気もざわめきも 紫音には届かない。 ただ静かな時が2人には流れていた。

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