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Chapter14

翌朝も、その翌朝も くる日もくる日も 沙月はアパートへやって来て 紫音を外へ連れ出した。 紫音の回復は みるみる内にーーとはいかなかった。 それでも 2日目にはおにぎりを一口 5日後にはおにぎりを一つ 1週間後にはおにぎりを持参するまでに 回復していった。 随分久しぶりに「お腹空いた」と口にした時には、沙月は涙ぐんで喜んだ。 紫音はそんな沙月の優しさが ただ嬉しかった。 相変わらず部屋の前を通り過ぎる 足音には反射的に身を構えるが 胃が凍りつくような事はもうない。 そうして 1ヶ月を過ぎた頃には頬に赤みが戻り、 体調もすっかり戻りつつあった。 ーーー 「......ねぇ、紫音。」 沙月は目の前に並べられた料理を眺めながら、首をかしげた。 「貴方、痩せの大食いだったのね。」 「......よく言われる。」 紫音はピザを口に放り込むのを 一旦やめて上目遣いで沙月を見た。 「よく食べるようになったなぁとは思ってたけど...。」 そう呆れたように彼女は言って 「随分振り切った回復の仕方ね...。」 と軽快に笑った。 「......そうかな?」 紫音は気に留める様子もなく、またピザを口へ捩じ込んだ。 その顔を見て、沙月はお腹を抱えて笑うので、紫音もつられて笑った。 「あははッ!! ほんとに全部食べるつもりなの?」 「んう。」 「......そんなに入れると喉に詰まるわよ!」 沙月は毎日送迎ついでに紫音の部屋を少しずつ片付けてゆき、散歩やドライブの後は紫音の部屋で昼食を摂る事も増えている。 こうやって、 2人で居ることはいつの間にか自然なものになっていた。 ある日紫音が 「沙月、何かお礼させてよ。」 と申し出ると、沙月は少し考えて 「じゃあ、卒論手伝ってよ!」 と笑った。 「もちろん」と返事をすると 飛び上がって喜ぶ沙月は、紫音にとって 太陽の様な存在になっていた。 今日はその約束通りこれから2人でキャンパスへ向かって卒論を進める予定でいる。 「これ本当に食べ切れるの?」 沙月は念を押して一口ピザをかじる。 「よゆー。」 その宣言通り、紫音は2枚のピザをペロリと平らげると、満足そうに立ち上がった。 「さて、行こうか。」 「......動けるの?」 「だから、余裕だって。」 パシッと沙月の肩を叩くと 「ホントにちゃんと手伝ってよ......ねッ!」 と倍になって返って来た。 弾むように冗談を交わしながら2人は沙月の車に乗り込む。 大学までの10分はあっという間だった。 ーーー 図書館に着くと沙月は 「ここで紫音に声かけたのよね。」 と、南の角の席に着いた。 「......俺ゾンビみたいだった?」 「...ふふっ! そう、ゾンビみたいだった。」 2人はヒソヒソと軽口を叩いて資料を広げる。 あの日を振り返るのは まだ怖かったが、沙月が側にいれば平気だと思えた。 山なりになった文献に目を通す。 紫音がめくっているのは仏語で書いてある文献だった。 「......紫音てフランス語もいけるの!?」 「......んー、英語ほどじゃないけど。」 「わーお......!」 「沙月は『Wow!』の使い方だけは nativeだね。」 「酷いわ! バカにしたでしょ!?」 「はは、したした。」 沙月は悔しそうに口を歪めた。 「ほら、真面目に読めよ。」 紫音が左手を資料に伸ばした時だった。 「......!」 「......!」 不意に沙月と手が重なる。 ハッと2人は目を合わせた。 その距離はあまりに近く ほんの一瞬視線を揺らすと 紫音は重なった手を握った。 ーーずっと側にいたい。 こんなに真っ直ぐな気持ちを抱いたのは初めてだった。 沙月は目を瞬かせている。 紫音はゆっくり身を縮めて 沙月と唇を重ねた。 「......!!」 ほんの少し 触れるだけのキスだった。 「......!」 我に返った様に紫音は顔を背けて 口元を抑える。 「......。」 驚いた沙月の顔はみるみる赤くなった。 「......ごめん。」 「......何でごめんなのよ。」 「......その......したくなって...。」 「............ッ!」 沙月は両手で顔を覆った。 耳まで赤くしている沙月を 横目で見ながら紫音は自分に 驚いていた。 ーー何やってんだ、俺。 でも、 気持ちに正直になるのは 悪くない気分だ。 ......。 「......あのさ、沙月。」 「......え?」 沙月は両手から目だけ出して答えた。 「......えっと。 ......好きになっちゃったんだけど...。」 紫音は沙月を真っ直ぐに見た。 「......彼女になってくれますか?」 沙月は絶句して動かない。 「......ダメかな?」 紫音は少し目を伏せた。 沙月は顔を真っ赤にしたまま 「......ねぇ、私いま、 キャンパス一の高嶺の花に 愛の告白受けてるんだけど...... ......舞い上がっていいかな?」 「......ははっ! 何だそれ...ッ!!」 「......笑わないでよッ!!」 「それってOKって事?」 「......そうよ。もうッ!」 沙月は顔を隠したまま紫音の肩を叩いた。 紫音は「いてっ」と言いながら沙月の手を握る。 「......じゃぁ俺も舞い上がっちゃおうかな。」 そう言うと紫音も顔を真っ赤にしながら もう一度沙月と唇を重ねた。 ーークリスマスはもう目の前まで迫っていた。

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