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Chapter7
11月にさしかかり
世間は浮かれたクリスマスソングに
彩られ始めていた。
あれから奈義とは一度も
体を重ねていない。
会えば言葉を交わすし愛想もするが
紫音は2人になる事を
出来るだけ避けていた。
いつもあれだけ押しかけて来ていたのに
パッタリと奈義の訪問はなく、
その代わり『今会える?』と
メッセージが頻繁に届いた。
『卒論大変なんだろ?』
と彼なりに気を遣っているらしい。
ーー気なんてつかえたのか。
紫音は鼻で笑うと
躍起になって卒論の制作に没頭した。
「会いたい」を押し殺して。
「触れたい」を飲み込んで。
ーーーバカみたいだ。
全部認めてしまったら
こんなにも......。
普段使うことの無い
奈義の部屋の合鍵を握り
扉の前に立つ。
中の気配を伺って
何度も鍵を握り直した。
アイツはあんなに簡単に
押しかけて来るのに......。
結局何も出来ず自室へ逃げ帰り
嫌気がさして合鍵を投げつけた。
相変わらず遠目で追う奈義は
八重歯を見せて上機嫌に笑っている。
彼の隣には、また違う女の子。
もう
見慣れたはずなのに。
不意に目が合う。
「しーちゃん!」
紫音は手を軽く挙げて通り過ぎる。
うまく笑えただろうかと自嘲した。
何処にいても
スマホのディスプレイに
"奈義"の文字が点ると
高鳴る心臓が忌々しい。
『今会える?』と
何度もメッセージが入って来たが
メッセージアプリを開いては閉じ
打ちかけた『いいよ』を
『ごめん』に打ち直す。
その度に紫音の心は消耗していった。
何を食べても味がしない。
その内、空腹が何なのか
分からなくなっていた。
“Shion? You don’t sound yourself lately. Is everything all right?”
母さんが何度も電話を寄越してきたけど。
「I’m fine. I’ve just been busy with my dissertation.」
今は、誰とも話したくない。
“……Oh, darling. You know I can hear it in your voice, even over the phone.”
「……I’m fine, Mum. Really.」
電話を切った途端、
突然景色が不自然に揺らいで
体が大きく傾く。
咄嗟に壁に手をついた。
ーー何か、食べなきゃ。
そう思えば思うほど、
食べ物を見るのが億劫になる。
もう立つ気力が沸かない。
机に突っ伏してぼんやりと
指先を眺める。
あの日の肌の温度。
触れていたあの指を
思い出して自慰をした。
ーーでも
ただ淋しくて、侘しくて、
虚しいだけだった。
それでも、まだ自分は
奈義を諦められないでいる。
滑稽でなければ何だと言うんだ。
ーーピコン
画面には『奈義』の表示
--Message --
『寄っていい?』
紫音はしばらくスマホの画面を
見つめていたが、
やがてその画面を
静かに伏せた。
返事は、出来なかった。
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