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Chapter19
これはもう呪いではないかと思った。
ーーじゃなきゃ怪奇現象かよ。
「Jo Malone が気になるかい?」
そう言って誠一郎はキャビネットから透明な小瓶を取り出した。
Jo Malone Londonの
ウッドセージ&シーソルト
......奈義が付けていた香水だ...。
「......。」
「気にしている様だったから。」
紫音はその小瓶を受け取ると、
恐る恐るキャップを外した。
微かに香る、何処か懐かしい香り。
ーーでも...。
「ーー......違う...?」
その小瓶は確かに奈義の物と同じだったが、漂って来る香りは奈義のそれとは少し異なっていた。
圧倒的に甘い感じが足りない。
紫音が首を傾げていると
誠一郎は少し目を細めて
「誰を思い出しているのかな?」
と困った様に笑った。
「何か違うと感じるのならば、
その人はコンバイニングしていたの
かもしれないね。」
「コンバイニング?」
「違う香水を重ねて使うことだよ。」
ーー重ねて使う??
アイツそんなお洒落な事してたのか...。
コンバイニングの上に
体臭が混ざったあの男の香り......。
脳裏に奈義の八重歯がチラつく。
「......紫音?」
「あ、うん大丈夫。ありがとう。」
そう言って小瓶をキャビネットの奥へ仕舞い込んだのはいつの事だっただろうか。
ーー紫音は天を仰いで何度目かわからないため息を吐いた。
誠一郎を見送って
もう約束の1週間が
経ってしまおうとしている。
『答えは急がなくていい。
この1週間で出なくても構わないよ。』
とは言われたが......。
先延ばしにしたって決心が揺らぐだけだ。
誠一郎の事は心から愛してる。
自分を曝け出せた初めての人...。
イギリスだって馴染みのある場所だ。
俺がこの呪縛から解放されるとしたら
誠一郎に付いて行くという選択しかないのかもしれない。
そう思うのだけれどーー。
紫音はふぅっともう一度ため息を吐いて
コーヒーチェーン店を後にした。
少しだけネクタイを緩めて
スーツの袖を捲り、時計を確認する。
時刻は19時15分を回った。
駅内の人の波はピークを去って
落ち着きを取り戻しつつあった。
もう2時間もすれば誠一郎を乗せた飛行機は空港に着く予定だ。
4月に入ってからは、朝晩の冷え込みも
厳しさを緩めたが、吸い込んだ空気はまだ冷たいものを含んでいた。
春の風が駅内にも流れ込んで来て
鼻腔をくすぐる。
その風の中にーー。
「……。」
紫音は足を止めた。
微かに。
けれど確かに。
懐かしい香りが混じっている。
……あぁ。
間違えるはずもない。
海風の中に漂う甘くオリエンタルな香り。
ずっと取り憑かれている
あの男の匂い。
ーーいる。
紫音は辺りを見渡した。
そして、人の流れの少し前に
知っている背中を見つけた。
ーーやっぱり......。
紫音は慌てて視線を逸らした。
それでも......。
体は吸い寄せられる様に
その背中を追ってしまう。
ーー憎いはずなのに。
............憎いはずなのに......。
紫音は人の波を縫って、
滑り込むようにその背中の後ろに付いた。
......。
あぁ......。
そう、この香り。
この歩き方。
この背中......。
「......ナギ...?」
紫音は考えるより先に
その背中を呼び止めていた。
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