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Chapter23
どんなにチープでも。
どんなにジャンキーでも。
洗練されていなくても。
どうしても食べたくなるものがある。
つい、手に取ってしまう
スナック菓子のような、
この味でなければならないという味。
「またそんな物を食べて。」
と、誠一郎は怒るだろう。
紫音は誠一郎に抱きしめられながら
その背中に腕を回せない自分を
心から馬鹿だと感じていた。
たった一度......
Jo Maloneの香りに包まれて、
髪を撫でられながら眠った
あの夜を忘れられないなんて。
朝まで隣に居てくれない
あの男が恋しいなんてーー。
「............。」
紫音はゆっくり誠一郎の胸から離れた。
ーー暖かくて、大きくて。
圧倒的に安心できる誠一郎の胸。
けれど。
自分が本当に埋もれたい胸ではない。
本当に欲しいのはーーー。
歪で、不安定で......
紫音しか収められないあの胸ーー。
紫音は、
あまりの罪悪感に、
顔を上げる事が出来なかった。
シャワーを浴びても
ベッドへ潜り込んでも
身を千切られそうな沈黙の中で
何度も脳裏を掠めるのは
『ーーまた、会いたい』の声。
掴まれた手の、
あの、温もり。
ーーうん。
......俺も会いたい。
頭の中で繰り返されるその一言が
重い罪を孕んでいるようで怖かった。
ーーー
夜が明けても
2人の間には重い沈黙が漂った。
お互い休暇を合わせていた事を
こんな風に後悔した事はない。
だが、鏡の前に立った紫音は
休暇届を出しておいて良かったと
思わざるを得なかった。
ーーひっどい顔。
腫れて浮腫んだ目と
爛れた鼻。
それもそうか。
あんなにみっともなく泣き喚いたのは
多分、赤ん坊の時以来だろうと思う。
思い返したら恥ずかしくて
今すぐここから逃げ出したかった。
ーーでも。
もう、
逃げるわけにはいかない。
今まで散々逃げてきた。
もう、
いい加減、自分の気持ちを伝えなければ。
沙月にどれだけ救われても
誠一郎にどれだけ愛されても
愛していると言って欲しかったのは...
側にいて欲しいと言われたかったのは...
他の誰でもない、奈義ただ1人ーー。
奈義に
選んで欲しかった。
......奈義を
選びたかった......!
俺はーー。
............俺はーー!
誰も傷つけたくなくて。
誰にも嫌われたくなくて......。
自分から
手を伸ばす事をしなかった......。
ーー今度は。
俺が、
自分で決断して
自分で選ぶ......。
それが例え、
誠一郎を傷つける事になってもーー。
紫音は鏡に映る酷い顔の自分を睨みつけて
口を引き締めた。
リビングでスコアを並べている
誠一郎の隣に腰掛ける。
「誠一郎。
......ごめん。話、聞いて欲しいーー。」
誠一郎は
ゆっくり頷いてスコアを脇へよけた。
ーーーー
それから1週間後ーー。
紫音は
満員のコンサートホールの最前列で、
最終演目の最後の余韻を聴いていた。
スタンディングオベーションで
会場が沸き立つ。
ステージの上の誠一郎と目が合うと
紫音は手を挙げて拍手を送った。
そしてまだ暗い会場をゆっくりと去る。
薄暗い会場が涙で滲んでいく。
泣くな......!
泣くのは違うだろ......ッ!!
紫音は涙を噛み殺した。
ーーありがとう......!
本当にありがとう......。
心の中で何度も何度も呟いた。
スポットライトを浴びている誠一郎が
遠くなり、重いホールの扉を出ると
2人はもう
他人同士だったーー。
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