24 / 28

Chapter24

最後のコンサートから3日が経った。 紫音は暖かくなってきた5月の海を 1人で歩いている。 自宅近くのいつものビーチ。 悲しい時も嬉しい時も この海にすべて受け止めてもらってきた。 砂の感触。 波の気配。 全部味わうために 膝まで海に浸かって 沈んでいく夕日を眺める。 まだ海水は冷たいが、 嫌な冷たさではなくなっていた。 ーー『俺......奈義にまた会いたい。』 そう言って誠一郎に切り出してから もう10日経った。 ずっと押し込めて来た気持ちから もう、逃げない。 誤魔化したりしないって決めた。 誠一郎を好きな気持ちに偽りはなかった。 十分すぎるくらいに満たされて 愛される喜びも、愛を伝える心地よさも知った。 でも。 こんな気持ちで、もう誠一郎の側には居られない。 ーーゆっくりと相槌を打ちながら、 誠一郎は真っ直ぐ紫音を見つめていた。 『ーー君が、いなくなってしまうのが ただ......ただ、寂しいと思うよ......。』 いつもの甘いテノールではない 絞るような、掠れた声だった。 『......イギリスへは... きっと来てくれるだろうと、 勝手に思っていたものだからね......』 誠一郎は、 珍しく情けないように笑った。 『......少々、堪えている。』 そして、 フレームの細いメガネの奥を 怪しく光らせて、 『だが、いくつか条件をのんでもらおう。』 誠一郎はそう言った。 ーーー ーー誠一郎が出した条件は4つ まず1週間後に控えたコンサートまで マンションに留まること。 コンサートを最後まで聴くこと。 そして、コンサートを終えた誠一郎が帰宅するまでにマンションを去る事。 最後の言葉が 『いってらっしゃい』であるように......。 それから、4つ目はーー......。 ............ 「......はぁ。」 紫音は空を見上げてため息を吐いた。 襟元をぎゅっと寄せる。 ーー4つ目は...... 『最後にもう一度、 ......君を抱かせておくれーー』 ーーって事だったんだけど......。 ーーはぁ。 紫音はもう一度盛大にため息を吐いた。 夕日は、 宝石を砕いたように輝きながら 海へ散っていく。 ーーそろそろ帰らないと。 そう思い踵を返そうとした時だった。 「......紫音!!」 予想外の声に、 紫音は弾かれたように後ろを振り返る。 ーーそこには、 ただ、 紫音だけを見つめて 立ちつくす奈義の姿があった。

ともだちにシェアしよう!