3 / 27

第3話

初めて会った時、稔さんは、左右壁一面に作り付けられた本棚からあふれ出した本や資料の山が其処彼処に出来ている、部屋の主の性格を表す雑然とした空間の中で、グレーで薄手のVネックセーターに、スリムタイプのデニムパンツを身に付け、長テーブルに広げたノートパソコンのキーボードを細い指でカタカタ打っていた。 集中を切ってしまったようで、突然闖入してきた僕を、迷惑そうに見上げた。細い銀色のフレームの眼鏡を高く尖った鼻先に引っ掛けた彼は、眼鏡の奥から切れ長の目でぼくをジロジロ見ながら、先生ならすぐ戻るよ、と言った。 「あ、じゃあ待たせてもらいます」 僕は2つ並べた長テーブルの、彼がいない方の対角線の角に座って、教授が帰ってくるのを待つことにした。 稔さんはもう僕には興味はないようで、またパソコンに向かった。 僕はチラチラと稔さんの様子を伺った。この時点では、名前も知らない相手だが、初めて見かけた綺麗な人を前に、僕はドキドキしていた。本や書類、訳のわからない物でふくれた紙袋などが教授のデスクや床の上、デスクトップパソコンの置かれたパソコンラックの上のプリンターのフタの上などに所狭しと積み上げられ、物が乱雑に詰め込まれた倉庫のような、どこかざわついた印象を受ける部屋で、彼の周りだけはシンとした静謐な空気に満たされていた。 なんとなく年上な感じはしたが、3年生や4年生には見たことがない。落ち着いた様子からして1コや2コの年の差ではない気もしていた。

ともだちにシェアしよう!