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第4話
銀縁眼鏡のよく似合う、細面の少し冷たそうな顔立ちが僕の好みにどんぴしゃで、あんまり見つめてはいけないと思いつつ、目が離せなかった。幸い、すぐ戻るという彼の言葉に嘘はなく、それから何分もしないうちに教授が帰ってきた。
「 おう、小田切、なんか用か」
トイレにでも行ってきたのか、両手をヨレヨレの白衣に擦りつけながら教授が聞いた。
綺麗な人は、教授の様子をうんざりした顔で見ていた。
「あ、あの、来週のゼミのレクが決まったんで」
「おお、そうか。何すんの?」
「フットサルです」
「ええ〜、なんか疲れそうだなぁ」
ゼミのメンバーの名簿を見て、誰と一緒が楽でいいかなどと教授が言っているのを聞きながら、僕はパソコンを打っている彼を盗み見た。すると彼も僕らを見ていたらしく、目が合ってしまった。僕は慌てて目をそらしたが、同じ様に目をそらした彼が、赤くなっているようだった。
「了解。じゃあ、怪我のないよう、気を付けて」
「はい」
そう言って部屋を出ようとした僕を、教授が呼び止めた。
ゼミの坂下教授は、バツイチ独身のせいか40代半ばとは思えないチャラさが、僕の苦手なところだった。くたびれた白衣を着、その下のシャツやズボンも清潔感とは程遠い、何日着たのかわからないシロモノを着ているとはいえ、背は高く、中年太りとは無縁そうなスリムな体型が、むさ苦しいオヤジ揃いの教授陣の中ではそこそこイケているように見える。故に、学生にそこそこ人気があるのがチャラさに拍車をかけていた。
たまたまゼミの内容と、僕がやりたいことが合っていたので入ったが、講義はともかく、親睦と称しての飲み会やレクレーションが多くて、またその中で学生と同じようにはしゃぐ姿はあまり見られたものではなかった。
だが、今日は教授のことを、心から尊敬している。
なぜなら、あの綺麗な人と僕を一緒にランチに誘ってくれたからだ。
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