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第10話

僕はこの時まで、教授がゲイだとは全く気づいていなかった。他人にあまり興味がある方ではないのと、教授がバツイチだと聞いていたからだ。教授が美形の男子学生によく仕事を手伝わせているのも、女子学生だといろいろ言われるからだと思っていた。 「稔は元気か?」 教授が聞いてきた。僕たちが付き合っていることは、お互いゲイだとカミングアウトしていないことから、誰にも秘密にしていた。僕も稔さんも大学を卒業している今、教授が僕に稔さんのことを聞いてきた真意を図りかねて、僕は言葉につまった。 「お前らが付き合ってるの、知ってるよ」 びっくりしている僕に、今度は教授が拗ねたように言った。 「俺は稔が一番のお気に入りだったんだ。そのうち口説くつもりだったのに、お前にさらわれた」 「え⁉︎先生、まさか?」 「何?気づいてなかったの?俺が男好きだって」 「いや、男好きなのは気づいてました」 教授は、好みのタイプの男子学生を周りにはべらせるのが趣味だと自慢げに言った。なんでも、離婚して女はこりごりと美形男子学生をチョイスしているうちに、隠れていた自分の性癖に気づいたらしい。 「お前に稔を紹介するんじゃなかった」 大人げなく口を尖らせて言う教授に、僕はちょっとムカついた。 「僕がさらったって言いますけど、稔さんは教授とは何の関係も無いんですよね」 尖った声で言った僕に、教授はニヤッと意味深に笑ってみせた。 「お前、知らないんだな。稔がどんなやつか」 「どう言う意味ですか?」 「あいつは、あんな上品そうな顔してるくせに、とんだビッチなんだよ」 「なっ…」 突然恋人を侮辱されて、僕は思わず拳を握った。

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