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第11話

「稔は強く迫るとイヤだと言えないタイプらしいよ。お前と出会った頃は付き合ってる男がいたはずだし、お前たち以外にも迫られてるところをよく見たし。あれだけ綺麗でビッチなんて、男にとって夢のようじゃないか?いろんなやつとヨロシクやってたって驚かないね。俺だって彼が学生でさえ無ければチャンスがあったと思うんだ」 あまりの言いように怒りで身体が震えたが、今日は仕事で来ているという事実が僕を抑えた。関節が白くなるほど拳を握りしめた僕を、意地悪く笑って見ながら教授が駄目押しした。 「お前もそうなんだろう?稔にちょっと強めに迫ったら、簡単に落ちたんじゃないの?」 教授という地位が邪魔をした、と稔さんを口説けなかったことを愚痴っている教授のことは最早どうでも良かったが、僕は稔さんを初めて抱いた日のことを思い出していた。 初めて坂下教授の研究室で会って以来、稔さんを認識したからか、学内で見かけることが多くなった。彼の姿を見ると、僕は手を振ったりして自分をアピールしていたが、稔さんの反応は薄く、多くは望めそうになかった。 大学でも吹奏楽部に入っていた僕は、よく晴れたある秋の土曜日、市内の大きな公園の中にある野外音楽堂で開かれる演奏会に出ることになった。学部の友人たちは見に来てくれるよう声をかけたが、やっぱり稔さんは誘えなかった。最初にランチした時、雑談の中で吹奏楽部でチューバを吹いていると言ったが稔さんは特に興味を持った様子もなく、見かける度に何度手を振っても一向に距離の縮まらない彼を、自分の演奏会に誘うほど、図太くはなかった。出来たことと言えば、せいぜい教授の部屋に今日の演奏会のチラシを置いて来たことくらいだ。

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