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第12話
雲ひとつない晴天に恵まれ、いつもピカピカに磨いているチューバが青空によく映えて、僕の気分もそれなりに上がっていた。部員のみんなと息を合わせて演奏していると、調子のいい曲に合わせて観客も手拍子したり身体を揺すったりして、大いに盛り上がっていた。僕は演奏の合間の小休止の時に、壇上から会場を何となく見まわした。今でもその時のことを思い出すと自分でもウソだと思うし、他人に言っても信じてもらえないだろうが、観客席の後ろの方、出入り口の近くに稔さんが立っているのが見えた。
演奏会には、市内の高校や中学校、市民楽団なども出演していて、彼らの保護者や友人などを含め、観客もそれなりの数がいた。そのため、稔さんが特に目立ったと言うことではなく、僕の目が彼に吸い寄せられたとしか思えなかった。びっくりして僕は何個か音を外し、指揮をしている先輩に睨まれた。
演奏が終わり、幕間に引けると僕はチューバをハードケースに突っ込み、急いで観客席に向かった。彼がいたところには、もう誰もいなかった。僕は慌てて、音楽堂の外に出た。音楽堂から公園の中に向かう遊歩道に見覚えのあるセーターの後ろ姿があった。僕は全力でダッシュして彼に追いつくと、腕を掴んだ。いきなり腕を掴まれてびっくりして振り返った稔さんは、僕を見ると真っ赤になった。
日頃、感情を表に出すことがあまりない稔さんの思わぬ反応に、僕は戸惑ってしどろもどろになった。
「あっ、あのっ、今日は来てくれてありがとうございました」
「腕、痛いよ」
稔さんにぶっきらぼうに言われて、僕は慌てて手を離した。
彼は腕をさすりながら黙り込み、僕も何を言っていいのか分からなかった。だが、僕はある事にはたと気づいて、自分の早合点に嫌気がさした。
「すみません。秋川さんが僕を見に来たってわけじゃないのに、なんかお礼を言ったりして図々しいですね。腕まで掴んじゃって」
頭を掻きながらオロオロと謝る僕に、稔さんがボソッと言った。
「…君を見に来た」
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