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第14話
2人で食事をして、少なくとも僕は稔さんとの距離がぐっと縮まった気がした。学内で見かけたら、手を振るだけでなく寄っていって話したり、時々食事に誘ったりした。彼も特に嫌がる風もなく、誘いに乗ってくれる。彼はあまり口数の多い方ではないが、僕が話すたわいもない事をたくさん食べながらふんふんと聞いてくれた。
初めの頃は、誘うたびにどちらが払うで一悶着していたので、自分の分は自分で払うことに決めた。それでも、バイト代が入ったりするとどうしてもご馳走したくなり、そういう時には稔さんは安い学食や牛丼屋などを選んでくれた。コンビニでバイトしている僕よりも、塾で講師のバイトをしている稔さんの方が収入もかなり良く、時々、焼肉や回転寿しに連れて行ってくれた。
「そんなに無愛想なのに、講師って務まるんですか」
「余計な事を言わずに、要点だけを伝える。充分だろ」
寿しの皿をうず高く積み上げながら稔さんは無愛想に答え、僕をじっと見つめた。
美形ってずるい…。コンビニで不自然な程の笑顔の接客を強いられている僕は、思わず世の中の不条理を嘆いた。
何度目かにランチに誘った時、学食の安くて美味くて大きいと評判のハンバーグ定食を前に、稔さんは少し遠いところを見ながら言った。
「俺なんか誘ってないで、衛も女の子とデートでもすればいいのに」
このころには、僕は稔さんへの気持ちがはっきり恋だと自覚していたが、彼にそれを伝えるつもりも、ゲイだとカミングアウトするつもりも全く無かったので、笑ってごまかした。その後、もう一度くらい言われた気がするが、僕がスルーしていたら言わなくなった。
稔さんは大学院修士課程の2年生で、この先博士課程に進むという事だった。僕が卒業するまでは大学にいてくれるのは素直に嬉しかったが、僕が告白することもなく、稔さんがゲイかもなんて都合のいいことは考えてなかったので、2人の仲がこれ以上進む事はなかった。稔さんの雰囲気から、女性と付き合ってるところは想像もつかなかったが、ゲイだとも確信出来なかった。2人で歩いている時、隣りを歩く彼の華奢な肩を抱きたくなる事はよくあったが、すんでのところでいつも踏みとどまった。
嫌われて、友人としても付き合えなくなるのがイヤだった。
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