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第20話

稔さんは博士課程を3年で修了し、博士号を取得して、今年の春大学院を卒業した。僕の会社とは別の中堅化学メーカーに就職し、期待の若手研究者として忙しく働いている。僕もまだまだ駆け出しの平社員で覚えることがたくさんあり、いくら時間があっても足りない状態だった。今回のデートも、稔さんが大学院を卒業して半年余りで数えるほどしかない貴重な時間で、稔さんを抱いたのは実に1ヶ月ぶりだった。僕は会いたくてたまらないので、こまめに連絡し何とか会う時間を作ろうと苦労していた。稔さんは僕からの誘いを仕事以外の理由で断ることは無かったが、僕の一方的な感情に押されて付き合い出したせいか僕ほどの熱量は無いようで、彼の方から連絡して来ることは滅多に無かった。 好きな人と付き合えて僕は幸せだが、稔さんが実際のところ僕のことをどう思っているのかよくわからない。強く迫られてイヤだと言えなかったと言われるのが怖くて、彼に気持ちを確かめることが出来なかった。 デートした日からひと月近く経ったある日、相変わらず忙しくて会えずにいたが、ランチなら一緒に取れると言うことで、稔さんをホテルのランチビュッフェに誘った。たくさん食べる彼にぴったりの企画だ。 ドレープをたっぷりとった豪奢なカーテンと、凝った寄木細工の床が美しいホテルのレストランで、いつもの食欲で皿に山盛りに積んだ肉や野菜をもりもり食べながら、稔さんが思い出したように言った。 「同窓会っぽいのやるって、坂下教授から連絡があった」 「へえ」 僕はビュッフェの興味のあるものを一通り食べ終え、デザートに出ていたブドウのゼリーにスプーンを突っ込んでブドウの実をすくい上げることに集中しながら、気の無い返事をした。僕のところには、そんな連絡は来ていなかったので、大方坂下教授がお気に入りの美形を集めて食事会でも開くのだろうと、呆れた気分で聞いていた。

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