21 / 27
第21話
「アメリカに留学してた大学院の講師が帰って来るから、研究室の連中を呼んだらしい」
「行くんですか?」
気乗りしない顔で、3枚目のローストビーフをつついている稔さんに聞いた。
「参加メンバーに、仕事のことでちょっと相談したい人がいるから。めんどくさいけど行かなきゃ」
不機嫌にため息をつきながらローストビーフを頬張り、付け合わせのブロッコリーとポテトもフォークでザクザク刺して口に突っ込み、ガツガツ咀嚼しながらスープでのみこんだ。まだ仕事に慣れていないせいか、会うたびに痩せたように見えるので、食欲が落ちてないのが分かると安心する。
「坂下教授に気をつけてくださいよ。あのオヤジ、稔さんに邪な興味があるみたいなんで」
そう言うと、稔さんが苦笑いを浮かべた。
「あの人は何もしないよ。自分で言ってるよりは常識的な人だから。学生に手を出したりしないよ」
「いつあるんですか?」
「明後日、大学の研究室でやるらしい」
「楽しいといいですね」
「うん」
「僕ともデート、してください」
稔さんがフォークを止めて僕を見た。そして、またすぐ皿に視線を落とすと小さな声で言った。
「…すぐ、すぐに会えるようにするから」
「はい、僕も時間作ります」
稔さんが、ほんのり赤くなってウィンナーソーセージを口に押し込むのを、僕は幸せな気分で見ていた。
ともだちにシェアしよう!