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第5話
彼を保護してからふた月ほど経ったが佐藤静臣という人間はどうにも掴めなかった。
王であろうが、下働きのものであろうが身分によって口調や態度を変えることはない。
それは彼の世界と我々の世界と制度が違う故か、それとも理解した上での事なのか。不明だ。
そして誘われるからか、好ましいと思うからなのか手が異様に早い。
目撃した事もあったのだが、相手との距離を詰めるのが早いのだ。それも違和感なく懐に入っていく。
相手が隙を見せると自然に手を体に添えている。厭らしい下心が見えない間にその気にさせられているようだ。
まるで魅了のスキルでも使っているように鮮やかな手つきだった。
けれども同様に興味を失うのも驚くほど速い。
私のようにひと時の遊び相手を探しているのかと思ったが、それにしても切り替えが早すぎる。
邪魔をされると相手を見向きもしなくなる。
知りうる限りでは、中断した相手とは二度とは関りを持とうとしなかった。
関係を持っていたのか、持とうとしていたのか、歴史の教師はその後辞退を申し出てきた。
理由を聞いても頑なに答えず去ってしまったのだ。
まるで弱みでも握られていたような……事に及ぼうとしたところを見られた羞恥心もあるのだろうが鑑定のスキルで何か見てるのだろうか。
仮に本当にそうだとすれば厄介だな……。
彼には裏の顔があるのかもしれない。否応なくそう考えてしまうのは不思議な事ではないだろう。
保護対象だとしても信用できるかどうかは別の話だ。
慎重に探っていかなければならないな。
「シャルル、お邪魔していい?」
平和に過ぎていたが書類に囲まれていた時間が長く、夜遊びするには疲れていたある夜。
自室の窓を大きく開け、心地よい風に下弦の月と街の明かりを肴に蒸留酒を吞みながら楽しんでいた時だった。
控えめに扉を叩く音と、柔らかい声が聞こえてきた。
何かあったのだろうか。
グラスを小さな二人掛けの円テーブルにおいて迎える。
「どうした」
こちらが用意した、上質な白い綿の寝衣を着ている。足首まである丈に袖口の青い蔓の刺繍が上品で、彼の柔らかな雰囲気によく似合っている。
顔を見るに緊急事態ではなさそうだが。
室内に通して蒸留酒を置いているテーブルの椅子に着かせる。
「お酒?」
「ああ、吞めるのか?」
そういえば年齢を聞いたことがなかったな。見た目は成人前のように見えるが実際はどうなのだろう。
彼の顔は彫りが浅く若く見える。
「大人だよ、僕」
こちらの心を読んだような返事に驚く。鑑定スキルは心を読むことなど不可能なはずだ。別にスキルを持っているのか?
同じ酒をグラスに注いで渡すと、少し目が輝いている。
「ひっさびさのお酒だ~」
ここに来てから初めて~と嬉しそうにして口を付けている。
吞める口なのか。
「シズは何歳なんだ?」
「んー? 22だよ」
22歳!? その見た目で私とそう変わらないのか。2歳の差しかないが異界の旅人は随分若く見えるのだな。こちらの世界では成人前のような若さだ。
シャルルは、と尋ねられたので24歳と答えると、この世界の人は大人びてるね、と言われた。
大人に対して大人びてるとはどういう意味だ。
「ところで何かあったのか?」
「今日は出かけないんだね」
まただ。会話ができてない。
「知ってたのか」
暇だからよく外をみてたんだ、と返事をした。
ということは夜は大人しくしてるのか。いい傾向だ。
「それよりっ」
蒸留酒をぐいっと飲み干したと思ったら立ち上がりそのまま抱き着いてきた。
一体何事だ。
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