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第7話

 それから責務が忙しくなり、執務室から出る事が少なくなってきたが気晴らしをする暇をようやく見つけ愛剣を持って中庭へ行こうとする途中、話し声が聞こえてくる。 『嫌だよ』 『私の物になれば自由になれるんだぞ?』 『えー? 殿下のモノになりたくないし』 『私が王になれば望む物なら全てやれるぞ』 『いらなーい』  我が兄、第二王子のジャン兄上とシズが話している。  兄はシズを手に入れてどうしようというのだろう。  次期王はオーギュスト兄上と決まっているが、狙っているのか? もしくはただの虚言か?  それにしても、何というか……交渉がなってないな。  そんなことではシズは頷かないだろう。 「あ、シャルルー」  話をさっさと切り上げて歩きはじめたシズに気付かれてしまう。 「ああ」  手に持った剣を見るなり、これから中庭ー? 頑張ってね、と言って足を止めることなく通り過ぎていった。  残されたのは、私とジャン兄上。 「おい」 「……何か」 「異界の旅人に私の言う事を聞かせろ」 「……それは無理難題かと」 「お前が拾って来た物だろ! それくらい出来ないとは手に持ってる剣は飾りか!? それで言う事を聞かせればいいだけだろ! アレは我が国の物だ!!」 「……失礼、彼は物ではありませんよ」  話しても無駄だ。  人として見ていない。  この様な人柄だっただろうか。陰に隠れている事が多く気づかなかっただけだろうか……。  こういう時はシズのように切り上げて去るのが良い。  背中に向けて兄が何か言っているが聞こえない振りをして中庭へ向かう。  先ほどの兄とのやり取りも全て剣を振る事で忘れる事にした。  しかし、少々厄介な事になったな。  彼のあの様子だと靡くことはないだろうが、ジャン兄上は先ほどのやり取りで諦めるのだろうか。  先日、オーギュスト兄上と共に陛下にも異界の旅人の処遇について拝聴したが、敵に回さなければ良い、とだけであった。  次期王としての兄上を期待しての発言だったのかもしれないが……あれでは敵にならないのであれば何をしても構わないというようにも聞こえる。  汗を流し執務室に戻ろうとする途中に、第一王子の妃であるアメリアとシズが話し込んでいるところに遭遇した。  「何かあったのか?」 「あら、ご機嫌よう。シズオミが【核】の事を知りたいのですって」  赤みの強い髪と琥珀色の瞳を持つアメリアはシズの名前をちゃんと発音出来るようで、聞けば何度も練習をしたのだと言う。少し頑固なところがある彼女は幼い頃から宮廷魔術師だった祖父と共に城に訪れていて、私たち三兄弟とは所謂幼なじみだ。 「【核】を?」 「うん。シャルルの部屋で見たやつ綺麗だったから、色々見てみたいなーって思って〜」  私の部屋で見た……防音の【核】か。 「ですので街の魔法屋に案内するのが早いと思いますの。外出許可をどうすれば頂けるかしら、と考えておりまして」  魔法屋は魔具に加えて、日常生活以外に使用する【核】が売っている。防音の【核】もそこで購入したものだ。  確かに【核】を見るには店に行くのが一番早いが、シズは髪色のせいで目立ってしまう。 「髪を隠せれば陛下に掛け合うことも出来るかもしれんが……」 「……えー……じゃあ剃る?」 「んもう、止めてくださいまし」  あ! それでしたら! と、何か思いついたのかアメリアがパチンと両手を合わせてにっこりと笑った。   次の日の午後。  婚約者候補と会う約束があり城の広大な花園に設定された東屋で共にお茶を飲んでいた。  ご令嬢は王族の婚約者候補としては申し分ない気高さと立ち振る舞い、そしてマナーを持っている。しかしながら好みから大きく外れていた。 「シャルル様、新しいお菓子のお店ができたらしいですのよ。先日ベリダンご令嬢のお茶会でそのお店の焼き菓子をいただいたのですが、とても美味でして次回ご一緒に如何です?」 「いや、甘いものは」 「そう仰る男性向けのお茶菓子もあるそうなんですの。私、貴方のために選びたいです。きっとお気に召すと思いますわ。ですから――」 「結構だ」 「私の美味しいと思うものを一緒に感じて欲しいのですわ。ね? シャルル様」 「近頃忙しくてな。いつかの機会に」 「あら、ご多忙ですのねぇ。あ、そうそうマーグレット伯爵夫人が今度――」  憂鬱だ。  貴族のご令嬢は菓子の話か噂話ばかりで面白くない上にお喋りだ。  沈黙という言葉を知らないのだろうか。  シズとふたりで話していた方が楽しい。  彼となら沈黙でさえ苦にはならないと言うのに。  ああ、いや男同士だから気楽というだけだ。 「――それで私達もそろそろ結婚のお約束をなさいませんこと?」  婚約者候補であって婚約者でもないのに、引き合わされてから何度目かのこのやり取り。その度にやんわりと断ってきたのだがいい加減はっきり断らないと相手にも失礼だろうか。 「……サリー嬢。申し訳ないが確認せねばならない書類が溜まっていてな。そろそろ失礼する」 「あっ、シャルル様……次はいつお会いできますの?」  返事をせずにあとはメイドに任せてその場を後にした。  もう十分付き合った。彼女も元婚約者候補としての泊がついただろう。近々断りの手紙を出すとするか。

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