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第8話

 そしてシズの街へ行くための算段なのだが、アメリアが提案してからは早かった。どこで手に入れたのか不明だが、シズの髪は街でありふれた茶色に染められていた。   黒に近い色を選んだらしいが、思い通りにはいかなかったのだとアメリアが残念がっていたが、これで街へ出ても目立たなくなった。  オーギュスト兄上にはアメリアから報告してくれるという。暇を見つけて二人で陛下にお目通り願うと、シズの髪を見てあっさりとお許しを頂いた。私も同伴するという条件付きだったが。  染めた髪色が落ちない内に早く行け、と急かされ、王子としての服を脱ぎ夜遊びの時のように平民の衣類と頭にターバンを巻き、準備を終えて門へ向かうとアメリアに出会うと、手が早いのも困りものですわね、と背中を叩かれた。  シズはアメリアに何か言ったのだろうか。私から手を出したわけではないのだが。  彼は同じく平民の恰好をして馬車の前で御者と話をして待っていた。  普段とは違う装いに新鮮さを感じる。  城から魔法屋まで離れているため王家の家紋を隠した馬車に乗り込み向かう。  馬車に初めて乗ったというシズはほんの数分程度だというのに揺れて気分が悪いし、座り心地が悪いけど、馬は可愛いし珍しくて楽しいと文句と楽しさで複雑なようだった。  ほどなくして魔法屋に到着すると馬車を降りるなり、辺りを見回しながら感嘆の声をあげていた。 「ねぇ、街みたいし、帰りは歩いて帰ろ?」  普段の掴みどころのない表情と違って好奇心を前面に出した顔で問われると断ることなど出来ずに、御者に帰りは不要だと先に戻ってもらう事にした。  魔法屋では様々な色の【核】が飾られている。  シズは一つ一つ、鑑定してるのだろうか、じっくりと見て回っている。  とても興味があるようで、瞳がキラキラ輝いて見える程だ。  時折店の者に質問を投げかけては感嘆し、また【核】を見る。これを何度も繰り返していた。  そういえば防音の【核】はあれが最後であったことを思い出し数個買う事にした。  使い切った【核】に魔力を自分で詰められると良いのだが、生憎そこまで力を持ち合わせていない。そうなると【核】は使い捨てになる。 「シャルル。お金頂戴?」 「欲しいものがあったのか」 「うん、綺麗だから飾っておきたくて」  使わないのか。  彼が欲しいと言ったのは紫色の【核】だ。私も見たことがない品だ。 「珍しいな」 「滅多に手に入らないんだって」 「何に使うのだ?」 「高いけど、いい?」  他の【核】と比べて本当に高価だ。一体何に使うんだろうか。折を見て改めて聞いてみるか。  一通り見て満足したのか魔法屋を出ると、城に向かって並んで歩き出す。  初めての街で見るもの全てに興味を示していた。気になった物があると足を止めて鑑定しては独り言を発しては頷いているようだ。  そしてすれ違う冒険者と思わしき民にも興味を示していて、すれ違いざまに視線を追わせていた。  ……冒険者になりたいのだろうか?  屋台にも興味を持ち、あれ何? これ何? 美味しい? と聞いてくる。  普段の飄々とした雰囲気から一転して無邪気な青年の一面をみて安堵する。  異界の旅人とはいえ、改めて普通の青年なのだと感じて自然と笑みが浮かんだ。 「ねえー?」  よそ見をしていると不意に話しかけられ、振り向くと彼とばちりと目が合う。その瞬間、ほんの少しだけ胸が騒めいた気がした。 「これ、森で食べたやつだよ」  屋台に沢山載せられている茶色い固めの殻に包まれた木の実だ。  確か、出会う前に森で食べたとか言っていたか。 「……どうやって焼いたんだ?」 「え?  焼いてないよ?」 「ん?  通常焼いて食べるのだが」 「えー?  焼いてなんて書いてなかったよ?」  焼かずに食べられるのか、これは……。 「食べたいのか?」 「んー……また今度でいいや」  彼は人だけではなく、全ての物に対して熱しやすく冷めやすいようだった。  ただ【核】だけは冷めないようで、色々調べている。ひとつの事に真剣になれるというのは良い事だ。 「ああ、そうだ。今度あの森へ行ってみるか?」 「ん、どこ?」 「君がいた森だ」 「あー……じゃあ木の実焼かずに食べてみて」  そんな話をしながら露店や街並み、民の生活について尋ねられた事を答えながら街を歩き城まで戻るとさっさと自室として宛てがわれた部屋へ戻っていく、購入した【核】でもじっくり調べるのだろうか。  なんというか、やはり余韻というものが彼にはないんだろうか。それとも私を都合の良い何かと思っている……?  その夜、自室に戻らず執務室で出かけた事で片付ける事が叶わなかった書類を読みながら昼間街へ出た事を思い出す。  染めていても変わらないサラサラと動く度に揺れる髪と素直に嬉しそうにしている目を細めて笑っている顔を見ると、頭ひとつ小さい彼の髪に何度も触れたくなった。  体を重ねたことのある者にも感じたことの無い感情だ。  周りに彼のような人物がいないから、珍しい動物のようにでも感じてしまうのだろう。実際彼は猫のようだしな。  そう思いながら早く責務を片付けるべく集中する事とした。  今宵は少し楽しい気持ちで眠れそうだ。

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