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第9話
後日。
シズを馬に乗せて最初に出逢った森へ出発することにした。
まず馬に乗ったことのない彼には乗り方から説明が必要だった。
日本という国では馬が移動手段に使われていないという。それならば仕方がない事だ。
「重心を真直ぐだ。そう、姿勢を正して……いいぞ」
「うわー、揺れる」
初めて乗るであろう馬に手こずっている。
揺れに対応できないようでバランスを崩しそうになったりしていた。
「馬と動きを合わせるんだ。上下に揺れてみろ」
「……上下……馬に乗ることなんていうんだっけ」
「ん? 騎乗するというな」
「あー……それなら僕得意かも」
ん?
得意?
そうか、得意……確かあの時も……いやなんでもない。
そして慣れてきた頃に私の前にシズを乗せて馬を走らせた。
風を切って走る速さに戸惑っていた彼も慣れてくると楽しい、と喜びの声をあげるようになっていた。
ただ、体が彼の背中と触れ合っていることを考えると、善からぬことを事を思い出してしまいそうで、風景や自然を感じる事で頭を切り替えた。
狩場のため時折、野兎や、鹿などの痕跡がある。
この世界は不思議なことに魔物が現れる場所とそうではない場所がある。この森はその一つだ。
馬を降りて二人歩いていた時だった。
「うーん」
「どうした?」
「森に見覚えとか難しくない?」
彼の世界には森がない訳ではないが、行く事などほぼないため区別がつかないという。
見慣れていない風景ならばそう思っても仕方がないか。
「どうやって森に来たのだ」
「さあ?」
「わからないのか」
「起きたらここで。鑑定しまくってたら倒れちゃったみたい?」
目を覚ました時に聞いた事と変わらないな。
倒れたのは力を使いすぎたという事か。それにしても目覚めたら森にいた、となると……。
「起きる前は?」
「んー……コンビニ行こうとしててー……巻き込まれた?」
こんび、に? なんだそれは。
いやそれより巻き込まれたとは。
「他に人が?」
「そう」
「その人は」
「知らない。探してもいなかったし」
他にもシズのように異界の旅人<プラネース>が居たという事か。
いなかったという事は別の場所にいるのか、それとも彼より先に誰かに保護されたのか……。
酒場でならそのような噂を耳にしてもおかしくないが、聞かないという事は隠れているのか、違う国にいるのか。もしくはすでに亡くなっているか。
何にせよ、情報が少なすぎる。報告すべきか迷うところだな。
「はい。あーん」
「ん?」
シズが指に持っている実を差し出してくる。素直に口を開けて食べるとガリガリと硬い食感だ。
しかし何回も噛むと優しい甘さを感じてくる。
「硬いが味は悪くない」
「ね。焼かずに食べれたでしょ」
ああ、街で言っていた木の実か。
硬すぎるから焼いた方が食べやすいが、飢えた時のために覚えておくか。
シズが倒れていた辺りに向かって歩いていく。葉の間から太陽の光が降り注ぎ銀の髪を照らしてながら彼が動く度にさらさらと揺れる。歩いてる途中でこちらを向いた顔が楽しそうで何故か心が温かい気がした。
ほどなくして倒れていた場所に到着したが、記憶にないという。
どうやってこの世界に来たのか結局わからないままだ。
ああ、そうだ。
「……帰りたくはないのか」
「……んー……便利なのは元の世界だけど、一人だし。どこでも一緒かも?」
「未練は? 親は、懇意にしてる者は……」
「あーね」
そう言った表情は普段と変わりなく感情が読めなかった。
帰りたい、と言わないならこの世界にいるつもりか。帰し方などわからないので助かるが。
それに居なくなると寂しくなる。
……いや、これだけ印象ある者がいなくなると静かになるからな。
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