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第10話
「シャルル殿下!」
朝早くに扉の向こうから慌てるメイドの声と不躾に寝室の扉を何度も叩いて起こされる。
「何事だ」
寝台から起き上がり寝衣のままに扉へと向かう。
「オーギュスト殿下が大変なのです!!」
無理やり起こされて多少ぼやけていた頭が一瞬で冴えた。
すぐさまメイドを呼び身支度を早急に手伝わせると、急ぎ兄上の部屋へと向かった。
扉の前に着くと立っていた護衛騎士が何も言わずに扉を開けた。
寝台の横にはアメリアと、寝台に横になっている兄上。顔色が酷く悪い。
「何があった」
「分からないのです。起こしに来ましたら、もう……」
宮仕えの医師の診断では、回復魔法が効かない事から、毒の可能性が高いという。しかし、毒の種類までは分からず手の打ちようがない、と謝りながら告げられた。
さらにもう一つ懸念点があり、首元に蛇のような文様が現れている事だった。
いつも太陽のように明るいアメリアが涙を浮かべながら兄上の手を握っている。
毒の種類が分かれば……どうしようもないのだろうか。
兄上を亡くす訳にはいかない。なにか手はないのだろうか。
それにしてもジャン兄上はどうしたんだ。まだ来ないのか。一人でも多くの知恵が欲しいというのに。
「毒……誰が、兄上を……」
「シャル、ル……もしもの時は後を……頼むぞ。ゴホッ……ゴボッ!」
「兄上!」
「オーギュスト! 無理をしないでくださいませ」
掠れた声で告げた後に咳き込むと吐血した。
そしてそのまま目を瞑ってしまう。
瞬間、亡くなったかと思ってしまったが腹が動いているのが確認でき皆で安堵した。
「後を頼まれても困ります。私は王になるつもりはありません」
調べる方法はないのだろうか……このままでは亡くなるのを待つしかないではないか。ん?……調べる? ……そうか。
すぐにシズの部屋へと向かった。
「シズ!」
礼儀に構っていられずに扉を開け放つ。
「……どうしたのー?」
優雅にティーカップを片手に少し驚いているのか返事に間があった。
「今すぐ来てくれ。お前の力が必要だ」
「えー? 何なにー?」
カップを乱暴に下ろさせると、その手を引っ張って半ば強引にオーギュスト兄上の部屋まで連れ出す。
「ねえ、なあに……」
オーギュスト兄上の様子を見てシズも言葉を失って動きを止めた。
「……鑑定すればいいんだね?」
判断が早くて助かる。
そっと兄上の手に自分の手を重ねてじっと見つめた。
「呪いの蛇毒……回復魔法は効かない……えーとギネル草?」
「ギネル草とやらが効くのか?」
「んー……そうみたい。呪いなのに草?」
シズが言わんとしてる事はわかる。通常呪いであれば薬草の部類など効果がないはずだ。
「ギネル草でしたら……草そのものに魔力がありますわ。呪いに効くとしてもおかしくはありません……ですが希少な植物ですので……」
アメリアは薬草などは専門までとはいかないが私たちよりかなり詳しい。
祖父が元々宮廷魔術師として勤めていた事もあり、アメリア本人は魔力がなくとも知識として教わっていたのだ。
王に継ぐことになった時のために教え込まれるけど、役に立つ日なんてくるのかしら、と少女の頃に文句を言っていたのを覚えている。
「保有しているか?」
医師に尋ねるも首を横に振っている。
「申し訳ありません。入手困難のため手元にはございません」
「ではどこにある?」
「【魔の森】に生息していると聞いた事がございますが……」
【魔の森】か……レギアの街を抜けた先だ。往復するのに一週間以上時間が必要だ。見つけられたとして間に合うのだろうか。しかも冒険者でもB級以上のパーティでないと抜けるのが難しいと言われている森だ。
「シズ。この毒の効き目がわかるか?」
「即効性とは書いてないよ。だから多分、直ぐにじゃないと思う……でもわからない」
【死】という言葉を避けてくれているのか。
動かなければどちらにせよ助かる事も出来ない。それならば――
「【魔の森】へは私が行こう」
「シャルル、貴方ギネル草をご存じじゃないでしょう? どうやってみつけるつもりですの?」
「あー……じゃあ僕一緒に行こうか? 鑑定で分かるし」
「そうしてくれると助かるが……いいのか? 危険だぞ」
「緊急事態だし……守ってくれるんでしょ?」
「……では、アメリア。あとは頼むぞ」
「お任せください。オーギュストはわたくしが守り通します」
涙を浮かべながら気丈に振舞っている。彼女の薬草の知識はこのような事態のために蓄えられたものだ。きっと役に立ってくれるはずだ。
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