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第12話

 兄上は大丈夫だろうか。ようやく手に入れたんだ。必ず助かる。まだご健在でいてくれ……!  帰路に就く間そればかり気になっていた。  シズは気を聞かせてくれたのか、ぽつりぽつりと独り言のような言葉を発していたが、返事を求められることもなくそれ以外は静かだった。  【魔の森】へ向かう道中は別々に眠っていたが、帰り道の野営では、シズが一緒に眠ることを望んだ。  欲が顔を出すような気分でもなかったが、ただ、隣で体を寄り添わせているとシズのぬくもりで心配から浅かった眠りが幾分か眠れるようになっていた。  予定通り約一週間後に城へ着くと飛び降りるように馬車から降りて休む間もなくオーギュスト兄上の部屋まですぐに向かう。  私の姿を確認した騎士がおかえりなさい、の言葉と共に扉を開ける。 「兄上は!?」  兄上は出かけた時より頬が痩せていたが、寝台の隣で見守っているアメリアが大丈夫ですわ、と頷いた。 「ギネル草だ。どうしたら良い?」 「文様の上に置くんだって」  シズが数枚まとめてギネル草を兄上の首に広げた。  そうすると葉が僅かに発光すると隙間から黒い靄のようなものがゆらりと風に乗るように開いていた窓から外へ流れていく。 「あー消えたよ。呪いの表示」  能力を確認してくれていたシズが教えてくれる。それとほぼ同時にオーギュスト兄上の目がゆっくりと開いた。 「オーギュスト!」 「兄上!」 「……アメリア……シャルル……」  そして兄上の瞳は再び閉じられた。  一瞬まだ呪いが!? と鼓動が跳ねたが、息をしていて顔色もギネル草の効果が出る前とは全く違っていてとても良くなっている事も確認できた、あとは、そうだな……体力だろうか。  空気のように控えていたメイドに医師を呼ぶように伝える。  私とアメリア、そしてシズ、と兄上しかいなくなると、首謀者は誰かという話になった。 「お二人が不在の間に調べましたが、手掛かりはありませんでしたわ」 「毒を飲まされた訳ではないからな……」  倒れる前日も、どこにも出かけておらず机に噛り付いていたとのこと。  何か魔の実験をしてた副作用ということもなさそうですわ、とアメリアが報告してくれた。  状況から次期王としての兄上を殺害することで利を得るものが兄上の周辺にいるということが明確だ。  手段を探ることも必要だが、先に誰が、どこで、呪いをかけたか、目的は……?  兄上が目覚めたら話を聞くことも出来るだろうか。  医師が到着すると、衰弱しているため同伴してきた治癒士が回復魔法をかけるが、根本的に治るためではないため栄養のあるものを徐々に食べさせてほしいという事だった。  一先ずは安心という事のようだ。私が出来ることはもうないだろう。話を聞けるようになったら呼ぶように、と伝えてシズと共に部屋を出た。 「お風呂入ってきていいー?」 「ああ、そうだな。ありがとうシズ。助かった」 「んー……じゃあ一緒に入る?」 「……いや、それは遠慮する」  ざんねーん。じゃあねーといつもと変わらない態度で去っていった。  何が「じゃあ」なのだろうか。彼の言いだす事は脈絡が理解できない事が多い。  しかし、彼のお陰でギネル草は入手できたし、兄上の呪いも解くことができた。  助けられてばかりだ。何か礼をせねばな……欲しいものはあるだろうか。  そうして自室に戻るとシズ同様汚れを落とすべく入浴する事とした。  湯船に漬かりながら安堵のため息を吐き出して、ふと思い出す。  彼の持っていたあの本はなんだろう。そして何を倒したのだろう。  鑑定士というスキルは鑑定しか出来ないものだと思っていたが違うのだろうか。  それとも別のスキルを……?   そしてさっきの事といい、彼は何を考えているのだろうか。全くわからない。  考えれば考えるだけわからなくなる。  旅の汚れを落とすと、不在中に溜まっているであろう仕事を少しでも減らすべく執務室へと向かった。  次の日、執務室の机に噛り付いているとシズがふらり訪問した。 「ねぇ、毒ってどうやってかかるの?」 「飲む、毒草に触れる、魔法……あとはそうだな【核】とかだな」 「じゃあお兄さんって魔法か、【核】で毒に犯された……呪われたってこと?」 「そうだな……どちらかだと思うが……どうしたのだ?」 「んー……じゃあ僕の力じゃわかんないか」  協力しようとしてくれたのだろうか。  聞けば鑑定はその時の状態がわかるだけで基本的にはそれ以外の事はわからないそうだ。  兄上の呪いの解読方法がわかったのは呪いの名前に付随していたからだという。  すべてがわかるわけではないが、時折状態以外の事が載っている事がありその法則は不明だと言っていた。 「大丈夫だ。あとは私たちがなんとかする。いや、してみせる……長旅で疲れただろう。もう休むといい」  「終わったら、また街連れてってねー」  ひらひらと手を振って来た時と同様にふらりと去っていった。  それが私の見た彼の元気な姿の最後だった。  二日後、シズは兄上と同じように毒に犯されていた。

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