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第14話
「……ぅ……っん」
寝台から小さい苦しそうなうめき声が聞こえてきた。
「シズ!」
ハッとして弾かれたようにシズの手を握った。
そして気付いた。
握った手が冷たい事に。
【魔の森】からの帰路で身を寄せ合って眠った時は温かかったのに、まるで氷のように冷え切っている。
このまま、死んでしまうのだろうか――
ふとそんな恐ろしい考えが頭に過った。
目が覚めなければどうすればいい。
彼が来てまだ数か月ほどだったがその間に見せてくれた表情が、出来事が走馬灯のようにを頭の中を駆け巡っていく。
嫌だ。
絶対に嫌だ。彼がいなくなったら私は……。
――いや、違う。そうではない。
そう、彼の願いを叶えてやらなければならない。そのためには死なせるわけにはいかない。
利用価値の高い異界の旅人だ。
国にとっても失うわけにはいかない――
だから……冷えた体を温めてあげるしかない。
【魔の森】でシズがしてくれたように彼の眠る布団に潜り込み。冷えた体を抱きしめて体温を分けようと試みる。
密着した体から感じる体温はひやりとしていて先ほどから感じている死をちらつかせる。そうはさせまいと願いを込めてぎゅっと強く腕の中に閉じ込めた。
そうしているとトク、トクと弱々しい心音が伝わってくる。その事に少しだけ安堵することが出来た。
その後薬草を煎じた飲み物をもってきたアメリアと治癒士に驚かれたが、医師曰く、冷やさない事も大事だというので行動としては間違っていません、と言っていた。若干顔が引きつっていたような気もするが……。
ともあれ、回復魔法を行っている間や何か緊急の書類がある時以外は傍にいるように心掛けた。
目覚めてはいないが、薬草を少し口に含ませるとコクリと喉が動いて飲んでくれた。
兄上への恩義もある。まだ礼をしていない、そうだから助けようと心から思うのだ。
「ん……ぁ、シャルル? あったかい……きもち、いー」
時折眠りから覚めて傍に私がいると顔を首元に擦り寄せてはまたすぐに眠ってしまう。
不謹慎であるが、その仕草がまるで猫のようでとても可愛いと思ってしまった……いや、本当に苦しんでいる相手に対して私は何てことを……。
猫にするように頭を優しく何度も撫でた。せめて私の腕の中で眠っている間は苦しくないようにと願って。
そうして過ごして3日。彼は看病の甲斐なく目を覚まさなくなっていた。声をかけても揺すっても漆黒の目は私を見てくれない。呼吸のたびに上下する胸を見ていなければ息絶えたのかと思うほどに静かだ。
布団の中で寄り添っていない時は不安で鼻の前に手をおいて呼吸をしているか確かめてしまう。
民に混ざって飲み屋で一夜の相手を探しているような遊び人の私でも王族の一員だ。何があっても取り乱してはいけない、冷静であれという教えを受けて育っているせいか、このような時にも普段と変わらないように表面上は振舞えてしまう。しかし、頭や心の中は何をするにしても彼の事が頭から離れないのだ。
兄上の事もあるというのに、犯人と犯行手段を解明しないといけないにもかかわらず、目の前の蒼白した彼の事を優先してしまう。
寝台の横の椅子に腰かけながら片手でシズの手を握り、もう片方にはあまり頭に入らないまま急ぎの書類に目を通していた時だった。
「シャルル、おじいさまがいらしたわ!」
バンッ、と豪快に扉が開かれる。
変わらず王族の妃らしからぬ勢いで飛び込んできたアメリアの叫び声に勢いよく顔を上げる。
早馬を出して早三日、到着を今か今かと待ち望んでいた元宮廷魔術師のアーバン爺がついに姿を現した。
「久しいの、シャルル殿下」
「ああ、すまない急に呼び立ててしまって」
「よいのじゃ……彼が件の異界の旅人<プラネース>かの」
数年ぶりの再会の挨拶もそこそこにアーバン爺は寝台へ歩み寄ると、目を覚ます様子のない色をうしなっている額に手を当ててシズの様子を見てくれている。
「いしの呪いと彼は言っていたのだが……わかるか?」
シズが言った言葉そのままを伝えると爺は眉を寄せて少し唸った。
その表情に彼を握る手に力が入る。
「ううむ、いしの呪いか……少々厄介じゃぞ」
「どうすれば彼は助かる?」
「この呪いは体内の魔力を蝕み体を固まらせるんじゃ。呪いを吸い取るしか方法はない。そのためには特別な【核】が必要でなあ」
「……! すぐに用意する、どんな【核】だ」
「ううむ、紫色の【核】なのじゃが……市場にほとんど出回ってないのが難点じゃ」
――紫の【核】?
どこかで……。
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