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第19話
オーギュスト兄上が責務を再開できるようになった頃、シズも無事体力を回復し体慣らしのためと街へ連れ出した。
あの時と同じように魔法屋に連れて行く。
「【核】はいいなあー……」
踊りだしそうなほどに機嫌がいい。表情が活き活きしている。
輝く瞳で【核】を見て回っている。
「欲しいのがあれば買うぞ」
「ほんと? どれにしよう」
珍しいのないかなあと呟きながら楽しそうに見ている。
その姿は私の事を忘れているなどわからない程、何も変わらない。
暫くすると戻ってくる。
「欲しいものが見つかったか」
「ううん。珍しいのはなかった」
部屋に転がっている【核】の方が奇麗なの多いそうだ。
「【魔の森】で集めたやつか?」
「そうだよー。 シャルルもいたんだっけ?」
「……ああ」
「ふーん」
苦虫を嚙み潰したような顔をしていたかもしれない。そんな私をシズが漆黒の目で覗き込んでくる。
「なんだ」
「帰りはまた歩いて帰ろう?……あ、前はシャルルじゃなかったか」
私でなければ誰だというんだ。
記憶の私は誰と入れ替わってしまったんだ。
悪意のない言葉なのに、悪意すら感じてしまいそうだ。そんなこと有り得ないのに……。
城へ戻るとシズは以前と同じように余韻も何もなく部屋に戻ってしまう。
そんな変わらないところが更に胸を締め付けた。
二人が元気になり、事件の手口を探っている間も責務は待ってはくれない。そのため溜まっていた書類を片付けるべく机に齧りついていた。けれどシズの事がチラついて時折集中力を途切れさせる。
何時間そうしていただだろうか、目も肩も気力すら疲れてしまっている。
これは双剣を振るうしかない。身も心も気分を変えなければ。
いつも通り中庭で基本の型から順番に振るって汗を流し、汗で濡れた上半身の服を脱いだ時だった。
「イイ身体~」
シズが私を見て拍手している。
以前も同じことを言われなかったか?
まるで私が記憶を持ったまま過去へ戻ったような錯覚を覚える。
「剣を持ってみるか?」
「いいの? ……結構かる――」
途中で言葉を止めて持っている双剣を見つめている。
「シズ?」
「ねぇ、僕。いつまで大人しくして……あれ? ごめん、オーギュストに言われたんだっけ」
「いや、私が言った。覚えてないのか」
「……そうだっけ?」
言われたことは覚えているのに……誰に言われたかが曖昧になっているようだった。
やはり完全に忘れているわけでじゃないのだな。
「大人しくしていたから、と私の部屋に夜這いに来たのも忘れたのか?」
「うーん。この身体見たらそうするかも?」
「私の体は好みなのか」
「あ、忘れるところだった。オーギュストが呼んでたよ」
答えてくれないのか。いやそれより兄上が呼んでると? 何か分かったのだろうか。
シズとは別れ、汗を簡単にお湯で流した後に兄上の執務室へ足を運んだ。
「来たか」
「何か分かりましたか」
「1人だけ該当するものがいたのだが、その者も姿を消していることが判明した。行方を追わせている」
「……そうですか」
「お前の方はどうだ」
「明日、情報屋と会いますので」
「分かった。何か手ががりが掴めれば良いが……」
「……そうですね」
シズの記憶の事も聞かれたが戻る気配は今の所ないと伝えるしか無かった。
進展があるどころか遠ざかってしまった気さえする。明日の情報が役立つものであれば良いが……。
オーギュスト兄上が倒れてからずっと忙しく夜遊びをする時間も取れていない。
疲れているが気が張っている気がする。
今日は少し酒を入れて眠るとしよう。
「シャルル寝た?」
控えめに扉を叩く音と、柔らかな声。
「どうした」
扉を開けるとシズが立っていた。
「あー……なんとなく?」
いつもみたいにはぐらかすのでなく珍しく煮え切らない表情だ。本当にどうしたんだろうか。
「悩みでも?」
「うーん。なんだろ? わかんない」
「体調でも悪いのか」
「全然」
「……呑むか?」
「あ、それかもー」
自分でもわからなかった感情を見つけたのか、悩ましい表情がぱっと輝いた。
部屋に招き入れてグラスに琥珀色の液体を注ぐ。
なんだ酒が飲みたかったのか。それならそうと……うん? もしや記憶はなくとも感情は残っている……?
蒸留酒を渡すと一口呑んで、これこれーと声をあげている。
では……。
「シズ」
「んー? ……っ、ん?」
顎を掴んで酒で濡れた唇を噛みつくように塞いだ。
下唇を食んで、隙間が出来ると舌を口腔内に入れて彼の舌を絡み取る。
「……ぅ、んふっ……」
抵抗もなく絡み返して答えてくれる。舌をジュルと吸い上げると身体が小さく震えていた。
唇を離すと僅かに漆黒の瞳が潤み始めている。
「いいよ。シャルルなら」
互いの唾液で濡れて光る唇でそう言われたが、そんなつもりにはならなかった。
ただ、確かめたいだけだった。
「やらないの?」
何も言わない私に疑問を感じたのか、シズの方から胸板に誘うように指を滑らせてくる。
魅惑的だ。快感に啼く声と痴態に揺れる裸体を思い出して唾を飲み込む。
「……挿入しないが」
「お試しってことー?」
無邪気なその一言が氷のように突き刺さる。
――ああ、やはり覚えてないのか。
あの時、何度も挿入してと言っていたのに。
わかっていた。何度も覚えていないと目の当たりにしてきたではないか。
期待をして馬鹿みたいだ。
「いや、冗談だ。呑んだら眠るといい」
「そ? なんだ。ざんねーん」
そうしてお互い沈黙したままグラスの酒がなくなると、じゃあね、とシズは言われた通り部屋を出ていった。
残されたグラスを見て深いため息を吐き出す。
こんなに心を乱されるのはどうしてだ。
ただ、珍しい保護する対象を拾っただけではないか。
それなのに……。
それなのにどうしてこんなに彼を傍に感じる事が出来ないと辛いのだろうか。
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