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第20話
「ゴーフェンという魔術師いだったわ。グラント家お抱えの魔法使いみたいね」
グラント家といえば、娘がジャン兄上の許嫁ではないか。
「所在は?」
「行方不明みたいね」
オーギュスト兄上が言っていた失踪した魔術師ということで間違いなさそうだ。
「探せるか」
「時間はかかるかもしれないわ」
「わかった」
「何か掴めたら連絡を入れるわ」
報酬を渡して別れた。
時間がかかるかもしれないなら、こちらからも探ってみよう。
ジャン兄上の捜索は難航しているようで進展がないが、被害を受けた二人ともが回復したことで何か動きがあるかもしれない。
オーギュスト兄上と父にもその旨を報告し、兄上は引き続き魔法研究の伝手で探す方向で進め、父は兵を増やし探索範囲を広げた。
そしてシズは消えた――
昼になっても出てきていない、声をかけても返事がないので部屋へ入ると誰もいなかったので、私の部屋にいるのではないかとメイドが声をかけてきて発覚した。その後アメリアも連れ出し城中探したが見つからなかった。
床に散らばっていた【核】はシズと共に綺麗に消えていた。
「城から抜け出すなんて何を考えてるんだ!」
怒りのままに机に拳を振り下ろしドンッと鈍い音がする。
音に驚いた近衛兵が駆け寄ってくるが、私の表情をみてなのか直ぐに下がった。
何故居なくなった。
何か不満があったのか?
それともまさか誘拐されたのか?
いや【核】も無くなっているならその線はないだろう。
彼は自ら私たちの……私の前から消えたのだ。
王族を陥れようとした犯人の手がかりも見つからず、ジャン兄上も行方知れずのまま何ひとつ解決しない状態で何をしてくれているんだ。
何を考えている!
怒りだけが先立つ。
保護対象を逃したとあれば私のお咎めがない訳ではなかろう。
陛下にもお伝えしたが逃したことに対しての罰は受けてもらうが、自ら消えたのであれば警備体制に問題があったのではないかと城の体制を見直すと共に、シズに対しても捜索兵が出された。
それでも状況が進展しないまま日々は過ぎていった。
情報屋から連絡もない。まさか放棄したのではあるまいな。そう疑ってしまうほどに日が経っている。
連絡がなく動きようがないため表向きいつもと変わらぬ日常を過ごしている。そう、シズが来る前と変わらない生活に戻った。
いつものように書類を読んでいると、ふと太陽の光が気になった。
ああ、今日は剣を振るうには丁度良い天気だ。書類整理は一度辞めて体を動かそう。
そうして双剣を手にし中庭で気分転換を兼ねて鍛錬を始める。
「はっ!……ぁ」
型の練習をしていると左手の剣が手から抜けて落ちた。
汗で滑ってしまったようだ。
そういえば汗で服が気持ち悪くなっている。脱いで続きをやるか。
「……」
上半身裸になってから、柱に視線が向いた。
その場所でシズが声をかけてきた事をぼんやり思い出す。
改めて彼が居ない事を辛く思う。
何故、私はただ一人いなくなっただけで心を乱されなければならないのだ。
どうして何もかもなかったかのようにして居なくなった。
城から逃げたのか、私から逃げたのか。
誘ってきた瞳は何を意味していた。
私は彼が手を出した者たちの一人なのか。
彼にとって私という人間はそれほどの価値しかないと考えているのか。
深く長いため息が出た。
木の実一つ見てもそうだ。些細な事で毎日のように面影を探しているような気がする。
「我が弟ながら情けない」
「兄上?」
確認のためにオーギュスト兄上の執務室に行った時だった。
「シズのことを愛している事に気付かないのか」
「……愛?」
誰が誰をなんだって?
「記憶がない事に落胆し、居なくなったことに絶望したのだろ?」
確かに、そうだが……それは兄上でも、アメリアがそうなったとしても感じると思うのだが……。
「アメリアを撫でたいと思ったことは? 口付けたいと寄り添いたいと思ったことは? 他の者にそう思ったことはあるか?」
「……いえ」
「では明確だろう」
「保護対象ですし」
「シャルル。いい加減素直になれ。保護対象だからと心から寄り添いたいと思うのか」
必要書類を渡し自分の執務室へ戻ると兄上から言われたことが頭に浮かぶ。
愛?
私がシズを……?
触れたいと思う事も、助けたいと思う事も、傍に居たいと思う事も全て愛だと?
……これが?
いや、俄かに信じられない。身寄りのない異界の旅人に情が沸いただけではないのか。
そもそも愛とはなんだ。
私は見た目が好みな婚姻相手が見つかれば王子としての役目を果たせるのだ。それでいいではないか。
そう、それよりもグラント家の魔術師とジャン兄上の続報はまだなのか。
余りにも進展がなさすぎるではないか。
私の心情よりもそちらが先だ。
情報屋の女に予め聞いていた連絡方法で確認の手紙を出した。
数日後、返事の手紙と共に先日会った婚約者候補から手紙も届いていた。夜会をするので出席して欲しいと。
出席はしたくないが、グラント家とも繋がりがあるご令嬢だ。何か手がかりが掴めるかもしれんな。
何もなければついでに婚約者候補から外れてもらう旨を伝えよう。
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