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第7話

 しかし篠塚の心が離れてからは、仕事中も雪乃に対しての態度がどんどん横柄になっていった。アドバイスやフォローもなくなり、そのうち自分の仕事まで押し付けられるようになっていく。  篠塚がそうなってしまったのは、雪乃が原因だと言われているように感じて断れなかった。    桐江は雪乃の話を頷きながら聞いてくれた。  重なっていた手がいつの間にか強く握られている。自分の手が震えていたのだとようやく気が付いた。  握り返しても良いのだろうか。逡巡したが、後悔したくないという気持ちが勝り桐江の手を握り返す。  桐江はぐっと力を込め、雪乃と目を合わせてきた。 「今の話のどこに宇井くんの落ち度があったの?」 「どこに……って……全部?」 「悪いのは全部篠塚じゃないか。全てを宇井くんのせいにして自分を正当化したつもりかもしれないけど、そんなもの傲慢でしかない。宇井くんから捨ててやれば良いのにって思ってしまったけどね」 「僕からなんて言えませんよ。仕事にも支障が出ます」 「寂しくないの?」 「え……?」 「今まで、寂しくなかったの?」  唐突に聞かれて虚を突かれた顔をしてしまった。  寂しいかどうかなんて考えたこともない。自分の感情など押し殺してきたから。  恋人ができたらもっと楽しい時間が過ごせると期待していたが、理想と現実は違う。  同性で付き合うともなれば、多少の我慢も必要なのかもしれないと、言い聞かせるように自分を励ましてきた。人生で恋人が出来ただけでも奇跡なのだから。  でも桐江からの質問に考え込んでしまった。  篠塚の顔色ばかりを伺い、他の人の所へ行く背中を見送るしか出来ない。その彼のために残業をしては仕事で気を紛らわせてきた。 「……寂しい。寂しいです」  言葉が零れ落ちる。こんなふうに手を差し伸べてもらったのは始めてだ。  思い返してみれば、桐江の許で仕事をしている間は全く寂しいと感じたことがなかった。苦しいと感じたこともなかった。  だから忘れてしまっていたのだ。本当は誰かから愛されたかったということを。 「今夜で最後だからさ、俺にしてほしいこと、何でも言ってみてよ」 「何でもって、急に言われても思い浮かばないです。こうして二人で過ごしているだけでも満たされてます」 「遠慮しないで。ずっと物欲しそうな眸で俺を見てるの、気付いてないとでも思った? 後悔したくないでしょ」 「……」  後悔……。今日、桐江に頼まないと後悔すること……。  ないわけではない。しかしそれは極めて烏滸がましい頼みだ。でも、じゃあ、このまま帰宅して後悔しないのかと自問すれば、確実に後悔しかしない。  言って引かれないか……断られてもいいやなんて思えない。でも自覚してしまった心の隙間を埋められるのは桐江しかいない。緊張で体が強張る。飲みかけのカクテルから、目線だけを桐江に向ける。 「ん?」そこには優しく微笑む彼がいた。

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