29 / 55
第29章 正解のご褒美 **
「分かった」
和真は少し間を置いてから、悠麻のほうへ身体を向けた。
「墾田永年私財法が制定された年は?」
「えっと……七百……」
数字を探している途中で、和真の手が部屋着の裾から入る。脇腹を、指先がくすぐるように撫でた。
「んんっ、ちょっと邪魔しないで」
「考えて」
「考えてる。……七百二十三? いや、七百——」
手は止まらない。肋骨の下を往復する。くすぐったくて悠麻は肩をすくめて逃げようとするが、太腿は和真に触れたまま離れない。
「はい、時間切れ。答えは七四三年」
「七四三年だったんだ……」
悠麻は残念そうに呟いて和真のほうへ顔を寄せた。唇を重ねる。
短く済ますつもりが、和真の舌がすぐに入り込んできた。歯茎をなぞられ、上顎を撫でられる。浅いキスのままでは終わらない。悠麻の腰が小さく震えて、身体が和真へ預けられる。
離れるとき、ちゅぱ、と濡れた音がした。糸が唇のあいだで切れる。悠麻はそれを濡れた瞳で見ていた。
「次。伊藤博文が憲法調査で特に参考にした、当時のヨーロッパの国は?」
和真はそう言いながらソファへ寝そべった。
まだキスの余韻にぼんやりしていた悠麻が、遅れて顔を上げる。
「……何?」
和真はそんな悠麻の腰を引き、自分の膝の上へ跨がせた。下から見上げながら、同じ問題をもう一度繰り返す。
「伊藤博文が憲法調査で特に参考にした、当時のヨーロッパの国は?」
「全然分かんない……」
和真の指が、服の上から胸の先をちょんちょんと弾く。左右交互に。考える隙間を、熱が潰していく。
「そろそろ時間切れ」
「フランス!」
その瞬間、服の上から乳首をひねり上げられた。
「残念。プロイセン」
「ひぃっ……」
肩が内側へ寄る。痛みと熱が同時に残る。和真は力を弱めない。
「ほら、罰ゲームのキスは?」
「乳首、いじめるのやめて……キス、できない」
「手伝ってあげる」
ひねったまま、和真は自分のほうへ引っ張る。悠麻は「ひぎっ」と短い声をこぼして、引かれた先へ上半身が崩れる。胸が和真の胸にぶつかる。その勢いで口が重なる。
深い。
全身がキスのほうへ持っていかれる。和真の手だけが、悠麻の尻を優しく撫でていた。いじめられた胸の先がじんじんと熱を持っている。
十分に唇を重ねたあと、悠麻は和真の顔の左右に両腕をついて上体を起こした。
「もう少し手加減しろよ」
「ユウ、ちょっと酷くされるほうが好きでしょ」
そう言いながら、和真の腰が下から擦れた。布越しの硬さが当たる。悠麻のものは下着の中で、貞操帯に締めつけられたまま先走りを垂らしている。
悠麻は口ごもった。否定も肯定も、言葉にならない。
和真の手が後ろへ回る。入口を撫でて、ゆっくり中へ入る。もう本人より、いいところを熟知している。指先がそこを捉え、少し雑に刺激した。
「んっ……」
尻が小さく痙攣する。嫌がる動きではない。和真はそれを見ても、顔を変えない。
「じゃあ次の問題。享保の改革で設置された、庶民から意見を募るための箱は?」
指は止まらない。一本が二本になる。当たる面積が増えて、熱が倍になる。悠麻の腕がぷるぷると揺れ、口から息が漏れた。
「聞いてる、ユウ」
「え……?」
「享保の改革で設置された、庶民から意見を募るための箱は?」
問いかけの途中で、指の動きが速くなる。
「あああっ——」
腕が崩れた。快感に身をよじった顔が、和真のすぐ近くへ落ちる。
「時間切れ」
「頭、働かない……もう無理」
そう言いながら、腰だけは和真の指へ押しつける。
「もうクイズ、やめる?」
「……久世さんのクイズ、出して」
「俺のクイズ?」
悠麻はあえぎながら、途切れ途切れに言った。
「朝は、ごはんとトーストなら……トースト、派」
「……正解」
「じゃあ、ご褒美のキス」
和真は求められた口に唇を重ねた。短い。甘い。離れて、次を出す。
「コーヒーはブラックとミルク入り、どっち?」
「ブラック」
またキス。
和真が上体を起こす。膝の上に跨がったまま、顔と顔が正面になる。さっきまで悠麻を刺激していた手は抜かれ、代わりに背中と頭を掌がゆっくり撫でた。
悠麻はとろんとした目のまま、自分の部屋着と下着を脱いだ。和真のシャツのボタンを、一つずつ外していく。
「肉と魚なら、どっちが好き?」
「魚」
即答だった。
「正解」
和真が微笑みながらキスをして、貞操帯の鍵を外す。閉じ込められていたものが、元気よく飛び出した。和真はそれを、愛おしむように掌で撫でた。
「んぁ……早く、次の問題出して」
悠麻はボタンを外し終わった和真のシャツを邪魔そうに脱がせ、そのまま逞しい胸板へ腕を回した。
ぴたりと身体を重ねる。
素肌から伝わってくる和真の体温は、自分より少し高い気がした。胸から腹まで隙間なく押しつけて、その熱を確かめるように頬を胸元へ寄せる。
あたたかい。
それが妙に心地よくて、悠麻は腕に少しだけ力を込めた。離れるどころか、もっと触れていたいとでもいうように身体を擦り寄せる。
「休みの日。出かけるのと、家にいるのなら?」
「久世さん、意外と出不精だよな。……家」
「正解」
答えを聞いた途端、悠麻は胸元から顔を上げた。
ご褒美を待つ気はなかった。
和真の首に回した腕を引き寄せ、自分から唇を重ねる。
けれど和真も同じタイミングで悠麻を求めていた。
互いに距離を詰めたせいで、最初から深い口づけになる。一度離れて息を継いでも、どちらからともなくまた唇を重ねた。
悠麻は和真の首に縋ったまま、何度も口づける。
和真もそれに応えるように悠麻を抱き寄せた。
どちらがキスをして、どちらが受けているのか分からない。
ご褒美だったはずのキスは、とっくにそんな区別をなくしていた。
キスの途中で、和真の手が悠麻のものを包む。先を親指で転がし、下を掌で優しくもみほぐす。熱が溜まった袋を、指の腹でゆっくり揉む。悠麻の腰が小さく揺れた。
「んっ……久世さん」
撫でる速度は速くない。逃さない程度の圧だけが、先から根元まで往復する。溜まっていた熱が、和真の掌の中で脈に合わせて持ち上がる。
「もう、出ちゃう」
「出していいよ」
許された瞬間、悠麻の腰が和真の腹へ預けられた。先が掌の中で跳ね、熱いものが筋を引いて溢れる。一度では終わらず、締めつけられるたびにまた出る。出すたび、肩から力が抜けて、呼吸だけが和真の首元に落ちた。
しばらくして、和真が耳元で言った。
「じゃあ最後。俺が今、一番欲しいものは?」
悠麻は答えなかった。
代わりに和真の頬を両手で挟み、自分から唇を重ねた。
そのまま体重を預けると、和真の背中がソファへ沈む。
和真も答えを催促しなかった。悠麻の背中へ腕を回し、落ちてきた身体をそのまま抱きしめる。
言葉にしなくても、それで十分だった。
ともだちにシェアしよう!

