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第33章 近くて遠い **
キスは深くなった。
数日前までの、距離を置かれたときとは違う。和真の舌が悠麻の口の中へ入り、呼吸を奪うように重なる。悠麻は安心した。求められている。まだ欲しがられている。それだけで、胸の奥が熱くなった。
「ユウ」
聞きなれた低い声で名前を呼ばれるのが心地いい。
「誘ったの、ユウだからね」
「うん」
「じゃあ今日は、俺の好きにしていい?」
悠麻は小さく頷いた。何をされるか分からないが拒む理由がなかった。拒めば、またあの数日間のように遠ざかってしまう気がした。
和真は悠麻をベッドに寝かせ、シャツのボタンをひとつずつ丁寧に外していく。悠麻は和真の顔を見上げた。触れてくれているのに、その顔だけがなぜか少し遠く見えた。
「久世さん」
呼ぶと、和真は「ん」とだけ返して、悠麻の下着を下ろした。
金属が光った。何か月もつけている貞操帯だ。和真は慣れた手つきで鍵を外す。カチ、という音のあと、閉じ込められていたものが解放される。熱を持ったものが空気に触れて、小さく跳ねた。恥ずかしくて閉じかけた足を、和真の掌が太腿の内側を撫で、膝を開かせる。
「今日は、中じゃなくて……こっち」
和真の指が、悠麻の先の先端をそっと押した。尿道口に触れる感触に、悠麻の肩が跳ねた。
「痛かったら、すぐ言って」
声は優しかった。いつもの久世さんだ。
「…わかった」
悠麻はほとんど迷わなかった。ここ数日、自分から触れてこなかった男が、ようやくこちらを見ている。熱っぽい和真の視線は逸れない。まだ欲しがってくれている。それが分かれば、なんでも頑張れる気がした。
和真が耳の近くで言った。
「力、抜いて。動いたら危ないから」
そのまま手を伸ばし、ベッドサイドの引き出しを開ける。小さな箱が出てきた。蓋を外すと、中に金属の棒が何本も並んでいる。短いもの、長いもの。先が丸いもの、途中に小さな膨らみのあるもの。見ただけで怯むような太さのものまである。
悠麻はそれを見て怯み、開いた脚を閉じかけた。が、閉じきれない。和真の膝が内側から止めている。
和真はいちばん細いのを一本だけ取り出した。先が丸く、シンプルなものだった。ローションを絡ませて、光らせる。
悠麻の先はもう真っ赤で、刺激を待っているみたいにひくひくしている。その小さな口へ、和真が極細い先端をつぷりとあてがった。
冷たい。
「んうっ」
当たっただけなのに、腰が跳ねそうになる。
動いたら危ない。
さっきの言葉を思い出して身体を固くする。開いた脚ががくがくと震えた。閉じたいのか、逃げたいのか、自分でも分からない。ただ、下手に動けば中を傷つけそうで、それが怖かった。
「んっ……」
極細の金属が、少しだけ尿道口の中へ沈んだ。
先に来たのは異物感だった。痛い、と言い切れるほどではない。なのに、そこから意識が外せなくなる。開かされる感覚が、先から腹のほうへ細い線を引く。
悠麻はシーツを力いっぱい掴んだ。指の下で布が軋む。和真は一度止まり、悠麻の目を見た。
「大丈夫か」
「……変」
声が掠れた。動くのが怖い。呼吸するだけで中の位置が変わる気がして、息まで浅くなる。開いた足先が震えて、かかとがシーツを蹴る。蹴っても逃げられない。逃げる方向が分からない。
「続けるぞ」
和真が少しだけ目を細めた。その変化を、悠麻は好意だと受け取った。確認してくれる。心配してくれている。距離を置かれていた夜とは違う。
体温を吸って温まり始めた硬い棒が、浅い位置で内側を撫でる。悠麻の腰が反射的に逃げた。棒の角度が変わり、柔らかい粘膜に鋭い刺激が走る。
「あっ——」
痛いだけではない、しびれるような熱が走った。先から腹へ、細い電流みたいな快感が広がる。悠麻は思わず喘いだ。
シーツを掴んだ指に、力が入る。開いた脚ががくがく痙攣して、閉じられない。閉じようと動いたら、また自分で角度を変えてしまいそうで怖かった。
和真の左手が腰骨を押さえた。強くはない。ただ、逃がさない。
「動かないで。俺が動かすから」
悠麻は涙目で、こくこくと小さく頷いた。脚はまだ開いたまま、がくがくしている。
和真の手が、ゆっくりと抜き差しを始めた。浅い位置から、少しずつ奥へ。抜いては沈め、抜いては沈める。動かすのは和真だけだ。悠麻はシーツを掴んだまま、開いた脚を震わせているしかない。
「んっ……あっ、奥……」
細い棒がさらに奥へ進む。
感覚が先から腹の底へ細くつながっていく。
次の一押しで、強い刺激が走った。
「あああっ!!」
自分でも驚くような声が出た。細い棒が、前立腺に当たっている。頭が一瞬、真っ白になる。腰が跳ねた。和真はそれを逃がさず、腰骨を押さえたまま棒の先をそこに留めた。
「ここ、気持ちいい?」
答えを待たずに、和真がブジーの頭をトントン、と叩いた。細い振動が、当たっている一点へ走る。悠麻はまともに答えられなかった。
悠麻の腰が激しく跳ねる。跳ねるたび、中で棒が前立腺を擦る。和真はそれを楽しむように、当たっている先をぐりぐりと小さく動かした。細い棒で、同じ場所をゆっくり押し潰す。
「ひあっ、だめ、そこ——っ、あああっ」
口が閉じられない。端から涎が垂れて、顎を伝う。
和真が身を屈めて、それを舌で舐め取った。顎から唇の端まで、丁寧に。舐めながら、手は止めない。トントン、とまたブジーの頭を叩いて、振動を与える。
もうほとんど、棒は中に収まっている。先の取っ手だけが外に残っていて、下手をすればそれすら埋まりそうだ。悠麻の腰が跳ねるたび、短い取っ手が先に沈みかけ、和真の目が細くなる。
「美味しそうに飲み込んでるね」
ぐり、と押し込まれる。前立腺が細い先に潰される。痛いのではない。何も考えられなくなる。涎がまた溢れ、和真に舐め取られる。脚は開いたまま、がくがく痙攣している。
「んっ……久世さん」
声が出る。自分でも声が甘くなっているのが分かった。
和真はブシーをゆっくり引き始めた。全部は抜かない。途中まで来たところで、また沈める。
抜かれるたびに、溜まっていた精液が塞がれた棒の下までせり上がってくる。白濁が金属の途中まで絡む。次の瞬間、無慈悲にも棒が押し戻される。せり上がった精液も中へ押し戻されていく。戻された熱が、膀胱のほうへ圧をかけ、前立腺を内側から擦る。
「んあっ……戻って、くる……っ」
抜いては押し込み、抜いては押し込む。何回も繰り返すたびに、体の奥で甘い痛みが同じ場所を往復する。棒が動くたび、先から下腹までが細く引きつって、また緩む。
悠麻の腰が跳ねる。跳ねても、和真は同じ動きをやめない。
途中まで抜けた棒が、開いた穴を拡げたまま戻ってくる。出そうな熱の道を、何度も塞がれては開かれる。せり上がったものが、押し込まれて奥を叩く。
悠麻はシーツを掴んだ。脚は開いたまま、がくがくしている。奥の痛みが甘いリズムになって、考える隙間がなくなっていく。
出したい。出したいのに、出させてもらえない。
棒が動くたび、精液が先までせり上がっては、また奥へ戻される。下腹が締めつけられて、先だけがひくひく開いている。
「久世さん……出したい、出させて……っ」
声が甘く崩れた。自分でも分かっている。みっともない。それでも止まらない。
「もう無理、抜いて、出したいの……お願い」
和真は一度だけ、悠麻の顔を見た。それから、最後に全部抜いた。
抜ける瞬間、塞がれていた熱が一気に噴き出す。精液が腹へ、胸へ、派手に飛び散った。悠麻の腰が大きく反る。声にならない声が喉から落ちて、空になった穴をひくひく開閉させる。出したあとも、小さく痙攣している。
和真はそれを見下ろしたまま、箱へ手を伸ばした。
次に取り出したのは、さっきより長くて、もう少し太い棒だった。先は丸い。ローションが光っている。
「これも、いい?」
悠麻はまだ息が整わない。喉を鳴らして、小さく頷いた。求められることが嬉しかった。和真の指が頬を撫でる。悠麻はその手に、自分の手を重ねた。
先端が、まだひくひくしている尿道口へ沈む。前より太い。熱い。
和真は急がない。少し入れて、待って、また入れる。待たされるたびに、意識が先へ寄っていく。
悠麻の背がベッドに沈んだ。奥へ何かが進む感じと、尿道が内側から拡げられる感じが同時に来る。出したばかりの熱の道を、より太い異物が塞いでいく。
「はぁっ……」
「息、して」
和真が額を寄せた。キスはしない。見ている。悠麻の表情を、一つ残らず覚えようとするように。
「今のユウ、すごく素直だよ」
その言葉さえ、悠麻には愛おしく聞こえた。
和真は自分を見てくれている。欲しがってくれている。それだけで、ここ数日胸の奥に溜まっていた不安が少しずつ溶けていった。
「もっと……して」
自分から言った。
距離を置かれているあいだ、触れられないことが怖かった。だから今は、強く求められるほど安心した。
前の久世さんに戻ってくれたような気がした。
和真の動きが、わずかに深くなった。抜いて、入れる。浅い往復なのに、そこ以外が消える。先走りが縁から溢れる。
悠麻は和真の肩に顔を埋め、脚を開いたまま預けた。頭の芯が、じわじわ白くなっていく。考えるより先に、あえぎ声だけが出る。
「ほら」
和真の声は優しかった。ただ、いつもより低い。
「俺が求めれば、こうしてくれる」
悠麻は「うん」と答えた。和真がその返事に何を見たのか、悠麻には分からない。
悠麻に届いたのは、求めてくれている、ということだけだった。
和真の手が、根元を緩く握る。中の棒は、脈に合わせて存在している。外からしごかれるたびに、中の先が前立腺を押す。絞るみたいな動きだった。
「んっ……なに、これ……っ」
出す、というより、出されていく。先の穴は棒で塞がれているのに、隙間から白いものがゆっくり溢れる。
和真の指が根元を締め、棒を小さく沈めるたび、また一筋、押し出される。射精の形をしていない。溜まっていたものを、奥から搾られている。
悠麻の目尻が濡れた。痛い、というより、何も考えられなくなる。腰が跳ねても、和真はリズムを変えない。握って、押し込む。溢れた精液が棒の根元まで絡み、太腿を伝う。
「出てるよ」
和真の声は低いままだった。確認するような優しさがある。なのに手は、搾るほうをやめない。
出したいのか、もう出されているのか。悠麻には、区別がつかなかった。先から白濁がとろとろ落ちて、和真の指のあいだで糸を引いている。イキきれていないのに、中は空になっていく。
やがて和真が悠麻を見下ろした。
優しく微笑んでいる。いつもの久世さんだ。
その微笑みの奥に、今夜だけ別の感情が沈んでいることには、まだ気づかなかった。
「このまま、中にも入れていい?」
悠麻は涙の残った目で、こくこくと頷いた。ブジーはまだ尿道の中にある。
和真が悠麻の脚を開いたまま、ローションをつけた自身を入口へあてがう。正常位。ゆっくり沈めてくる。尿道の中に金属があるせいで、奥の感覚がいつもより近い。入ってくるたびに、中の棒が前立腺を内側から押し上げる。
「んあっ……両方、当たってる……っ」
和真は全部を一気には埋めない。途中まで入れて、待つ。悠麻の腹の奥で、和真のものと細い棒が、同じ場所を挟む。後ろから小突かれ、尿道からも小突かれる。悠麻の背がベッドに沈んだ。
動き始める。浅く、ゆっくり。
腰を沈めるたびに、和真のものが前立腺を内側から押し上げる。同時に、和真の手がブジーを浅く抜き差しする。後ろから突かれて、尿道から突かれる。同じ一点が、上下から挟まれる。
前立腺はいじめられすぎて、いつもより真っ赤に膨らんでしまっている。指で探られた夜は、奥のほうにある小さな膨らみを外側から撫でる感触だった。今は違う。
腫れあがったしこりが、和真のものに下から持ち上げられ、ブジーの先端に尿道側から押し返される。柔らかい核が、二つの硬さのあいだで潰される。
真っ赤に腫れているせいで、触れただけで過敏に跳ねる。いつもなら耐えられる圧なのに、今夜は当たるたびに下腹の底がきゅっと締まる。逃げる隙間がない。
腫れが残っているところへ、また同じ圧が重なる。悠麻の腰が、自分でも止められずに小さく痙攣した。
「んあっ……そこ、挟まれて……っ」
射精の感覚に似ているのに、出す場所が分からない。膀胱のほうへ圧が逃げて、足の付け根が熱くなる。
次の突きでまた同じ核を潰されると、甘い痺れが太腿の内側まで走る。悠麻の腰が跳ねる。跳ねた拍子に、和真のものが前立腺をさらに押し上げた。
「あああっ、だめ、そこばっかり——っ」
和真は逃がさない。角度を変えない。後ろから同じ場所を小突き、ブジーも同じ深さで往復させる。
タイミングが揃った瞬間、核が両方から同時に潰れた。
悠麻の視界が白くなった。声にならない息が喉から落ちる。鈴口から精液がとろとろ溢れ、ブジーの根元を濡らす。イキきれていない。なのに、前立腺だけが先に終わろうとしている。
「ここだね」
和真の声は低いままだった。確認するような優しさがある。なのに腰も手も、見つけた一点をやめない。
沈めるたびに下から押し上げ、ブジーを沈めるたびに上から押し返す。潰されて、離されて、また潰される。離された瞬間のほうが、熱い。核が元の形に戻ろうとするところを、すぐ次の突きが潰す。
悠麻の口が閉じられない。涎が頬を伝う。脚は和真の腰に絡みかけては、力が抜けて開いたまま落ちる。
前立腺がひくひく収縮するたびに、和真のものを締め、同時に尿道の中の棒も締め返す。二重に搾られている感じがして、頭の中が真っ白になる。
「痛いか」
「ちが……っ、考えられない。そこ、潰れてる……っ」
和真が短く息を吐いた。優しく微笑んだまま、ブジーを浅く引いて、また沈める。その動きに合わせて、自身も奥へ押し込む。
挟まれた核が、ひくひくと脈を打つ。悠麻の腰が跳ねても、和真は逃がさない。後ろと尿道から、同じ場所を何度も小突いた。
潰されるたびに、下腹の熱が一段ずつ上がる。出す、という形にならない。前立腺がイったあとみたいに痙攣して、鈴口から白いものがまた溢れる。
溜まった熱が、奥から絞り出されていく。和真が深く沈めたまま小さく腰を揺らすと、核はずっと潰されたままで、逃げる隙間がない。
「ユウは、俺が求めれば、こうしてくれる」
悠麻は「うん」としか言えなかった。契約だから、という意味には届かない。届いたのは、また欲しがってくれている、ということだけだった。
前立腺を挟まれたまま、それ以外のことは考えられなかった。
和真の動きが深くなり、ブジーの抜き差しも小さく速くなる。挟まれた一点が熱く脈打って、鈴口から白いものがまた溢れる。
和真が奥で脈打ち、熱を放ったとき、悠麻の内側も強く締まった。ブジーの隙間から、残っていた精液がとろりと落ちる。
和真は自身を抜いた後、尿道の棒をゆっくり抜いた。勢いのない透明な液体がしばらくあふれ続け、尿道口が赤く物欲しげにひくひく開閉する。
和真は悠麻の体を丁寧に拭いた。額にキスを落とす。抱き寄せる腕の位置も、変わらない。
「大丈夫か」
「うん……」
悠麻は和真の胸に顔をつけたまま、何度も頷いた。
激しかった。今まで見せたことのないところまで見られた。それでも、嫌ではなかった。
むしろ身体から力が抜けるにつれ、ここ数日ずっと胸に引っかかっていたものまで消えていくような気がした。
やっと、前の久世さんに戻った。
そう思えた。
欲しがってくれた。何度も自分を見て、最後にはこうして抱いてくれている。
それで十分だった。
悠麻は和真の胸へもう少し身体を寄せた。耳をつければ鼓動が聞こえる。背中にはまだ腕が回っている。
「おやすみ」
「おやすみ、ユウ」
今日は、このまま眠れそうだった。
だから悠麻は気づかなかった。
自分が眠ったあとも、和真が目を開けていたことに。
腕の中で眠る悠麻を、和真はしばらく見つめていた。
今夜、誘ったのは悠麻だった。少し違うことをしていいかと聞いても頷き、最後まで拒まなかった。
嬉しいと思った。
そして、すぐに打ち消した。
また、自分に都合のいい意味をつけようとしている。
悠麻は半年、自分のものになると約束した。
今夜、自分から誘ってきたことも、何を求めても受け入れたことも、契約を果たそうとしているだけだ。
そこに、それ以上の意味を求めてはいけない。
和真は悠麻の背中に回していた腕を、ゆっくりほどいた。
安心したような寝顔を見て、胸が痛む。
残りの時間くらい、欲しいと言えばきっと応えてくれる。
見たことのない顔だって、まだいくらでも見られる。
半年を買ったのは自分なのだから。
ひどい考えだと思った。
それでも、消えなかった。
今夜、悠麻が自分から近づいてきた。それを嬉しいと思ったことまで否定するつもりはない。
ただ、その理由を勝手に決めない。
それだけは、もう間違えない。
和真は眠る悠麻から少しだけ身体を離した。
ついさっきまで隙間なく重なっていた二人のあいだに、冷たい空気が入る。
その距離に気づかないまま、悠麻は眠っていた。
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