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第34章 客じゃない久世さん
あの夜から、和真とはまた以前のように肌を合わせるようになった。
悠麻から誘うこともあれば、和真のほうから求めてくることもある。
触れられなくなった数日間が嘘だったみたいに、同じベッドで抱き合って眠る夜も戻ってきた。
それで安心したはずだった。
久世さんはまだ自分を欲しがっている。
もう離れていかない。
少なくとも、悠麻はそう思っていた。
なのに、一度気になり始めたものは、元には戻らなかった。
「久世さん、今日仕事は?」
「午後から少しだけ」
「何時まで?」
「夕方には終わるかな」
「じゃあ、そのあと何すんの?」
ダイニングテーブルの向かいで、和真が不思議そうに顔を上げた。
「何って?」
「いや……何すんのかなって」
「特に決めてないけど」
「ふうん」
聞いておいて、悠麻は味噌汁へ視線を落とした。
自分でも、何が知りたかったのかよく分からない。
ただ最近、こんなことが増えた。
久世さんは休みの日に何をしているんだろう。
一人なら、何を食べるんだろう。
何をしているときが一番楽しいんだろう。
何をされたら嫌なんだろう。
何を怖いと思うんだろう。
考え始めると、知らないことばかりだった。
自分は久世和真のことを、それなりに知っているつもりだった。
好きな酒も知っている。
食べ物の好みも知っている。
仕事の話だって、七年前から何度も聞いた。
客だった頃、和真はよく自分に話をした。
悠麻もそれを覚えていた。
だから、知っていると思っていた。
でも。
あれは全部、客としてカウンターの向こうから見ていた久世さんだったんじゃないか。
酒を飲みに来る久世さん。
金を使う久世さん。
自分に会いに来る久世さん。
今、毎日同じ家で暮らしている男は、それだけではなかった。
客じゃない久世さんのことを、俺はどれくらい知ってるんだろう。
そんなことを、最近よく考える。
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