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第37章 今度は俺から
最近、もらってばかりだ。
冷蔵庫には、自分ではまず買わないような菓子が増えた。
テレビを見ながら一度「うまそう」と言っただけのものまで、数日後には入っている。
店で使うペンも、薄手のコートもそうだった。
欲しいと言った覚えはない。
和真が勝手に見て、覚えて、用意してくる。
「久世さん、最近俺に金使いすぎじゃない?」
「そう?」
「そうだよ」
「大したもの買ってないよ」
「久世さんの大したことないは信用ならない」
言っても、和真は笑うだけだった。
以前から金を使うことに躊躇のない男ではあった。
けれど七年前とは違う。
あの頃は、高い酒を入れて売上を作ってくれた。
今は、悠麻が喜びそうなものを探してくる。
何を食べたいか聞く。
何をするにも悠麻を先にする。
嬉しい。
でも、ある日ふと思った。
俺は?
自分は、この男に何をしているのだろう。
食事は作る。店へ来れば酒を出す。頼まれれば買い物もする。
けれど、一緒に暮らしていれば自然にすることばかりだ。
和真を喜ばせるためだけに、何かしたことがあっただろうか。
作りかけのカクテルが頭に浮かんだ。
あれは久世さんのためだ。
他の誰にも作らない。
それでも、少し違う気がした。
あれはバーテンダーとして作っている。
もっと単純に。
久世さんが喜ぶことをしたい。
そう思った。
*
その夜、店から戻ってシャワーを済ませると、和真は先にベッドへ入っていた。
悠麻も隣へ潜り込む。
「お疲れさま」
「久世さんも」
「俺は店で飲んでただけだけど」
「ほんとにな」
「ひどいな」
和真が笑う。
そのまま眠るつもりなのか、触れてくる気配はなかった。
悠麻は隣の顔を見る。
「久世さん」
「ん?」
「こっち向いて」
和真が身体を向ける。
「何?」
悠麻は答えず、その頬に触れた。
自分から触れることは、もう珍しくない。
でも今日は、何かを確かめたいわけではなかった。
ただ触りたかった。
「久世さん、俺にしてほしいことない?」
「急にどうしたの」
「いいから」
「してほしいこと?」
「うん」
和真が少し考える。
「ないの?」
「あるけど」
「じゃあ言えよ」
「何でも?」
「……内容による」
「そこは何でもって言ってくれないんだ」
「久世さん相手にそれ言うの怖いから」
和真が吹き出した。
その顔を見て、悠麻も笑った。
ああ、これかもしれない。
何かをもらうのではなく、自分がしたことで和真が笑う。
それが思った以上に嬉しかった。
「じゃあ今日は、俺から誘ったってことで」
「うん」
「久世さんがしたいこと、付き合ってやる」
「随分偉そうだね」
「嫌ならやめるけど」
「嫌とは言ってない」
和真の手が頬に重なる。
それでも向こうからは来ない。
悠麻は自分で距離をなくした。
唇を重ねる。
一度離れて、もう一度。
今度は長く。
和真の手が首筋へ回る。
それが心地よくて、さらに身体を寄せた。
前とは違う。
あの夜は、まだ求められていると確かめたかった。
今日は違う。
自分がしたい。
この男としたい。
それだけだった。
唇を離す。
「今日は久世さんの好きなのでいいよ」
言った途端、和真の目が変わった。
「それ、俺に言って大丈夫?」
「……何する気だよ」
「ユウが言ったんでしょ。俺の好きなのでいいって」
頬に触れていた手が、そのまま顎を持ち上げる。
さっきまで悠麻に任せていたくせに、主導権を渡した途端、空気が変わった。
悠麻は少しだけ後悔した。
「やっぱ今のなし」
「遅い」
「まだ何もしてないだろ」
「もう聞いたから駄目」
和真が笑う。
その顔に、嫌な予感がした。
「……久世さん、絶対ろくなこと考えてないだろ」
「失礼だな」
「じゃあ何するんだよ」
「先に聞いたらつまらないでしょ」
指先が悠麻の唇をなぞる。
「今日はユウが誘ったんだから、最後まで付き合ってね」
「……お手柔らかに」
「それは約束できない」
和真がもう一度、悠麻の唇を塞いだ。
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