47 / 55

第47章 今夜だけは

 和真は眠れなかった。  腕の中で、悠麻はもう静かな寝息を立てている。  結局、また手を出した。  もうしなくていいと言ったのは自分なのに。  求められて、拒みきれなかった。  それどころか、嬉しかった。  ――俺が久世さんとしたいんだよ。  何度も頭の中で繰り返してしまう。  あの言葉を、そのまま信じたかった。  悠麻も自分を求めている。  契約が終わっても、この生活を続けたいと思ってくれている。  そうだったら、どれほどいいだろう。  毎日、店へ行きたい。  カウンターの隅で酒を飲みながら、働く悠麻を見ていたい。  閉店したら一緒に帰って、午前二時を過ぎた部屋でくだらない話をしたい。  昼前に起きて、一緒に食事をする。  休みの日には出かけて、また水族館にも行きたい。  そんな毎日が、この先もずっと続けばいい。  できることなら、終わらせたくない。  悠麻のそばにいたい。  けれど、それは自分の望みだ。  七年前も、そうだった。  喜ばせたかった。  売れれば嬉しいと思った。  No.1になれば、もっと笑ってくれると思った。  だから金を使った。  その結果、自分の金が悠麻の居場所を変えた。  追い詰められていたことにも気づかず、笑わなくなった悠麻を見て、勝手に変わったのだと思った。  そして七年後。  ようやく自分の力で居場所を作り、もう一度笑えるようになった悠麻の前に、また金を持って現れた。  店を救う代わりに、半年をもらった。  自分の家へ住まわせた。  自分の望む関係に引き込んだ。  悠麻が笑ってくれるから。  自分からキスをしてくれるから。  一緒にいることを嫌がらないから。  今度は大丈夫なのだと、また思いかけていた。  今日知ったばかりなのに。  七年前、自分が何を見落としていたのか。  同じことを、もう一度してはいけない。  腕の中の悠麻が少し動いた。  眠ったまま、和真の胸へ頬を寄せる。  反射的に抱く腕へ力が入った。  離したくない。  明日も。  その次の日も。  ずっと、こうしていたい。  だからこそ、終わらせなければならない。  このままそばにいれば、きっとまた期待する。  悠麻も自分を好きなのだと。  この生活を望んでいるのだと。  自分がここにいてもいいのだと。  そうやってまた、自分に都合のいい意味をつけ始める。  それが怖かった。  半年が終われば、建物を渡す。  この部屋も渡す。  もう店のために金を借りる必要もない。  住む場所にも困らない。  自分を頼る理由を、全部なくす。  最初から、そのつもりだった。  半年間、自分のわがままに付き合わせた報酬を残して、悠麻を自由にする。  それで終わるはずだった。  なのに今は、その先まで欲しくなっている。  報酬を渡したあとも、店へ通いたい。  ここへ帰ってきたい。  悠麻の隣にいたい。  それでは、何のために自由にするのか分からない。  和真は眠る悠麻の髪を撫でた。  七年前に奪ったものを、今度こそ返さなければならない。  悠麻が、自分で選べる生活を。  そこに自分が含まれていると、勝手に期待してはいけない。  明日で終わる。  建物も、この部屋も、全部残す。  自分だけが、いなくなる。  胸の奥が痛んだ。  それでも、これでいい。  愛しているからこそ、今度は自分の望みより、悠麻の自由を選びたかった。  和真は腕の中の悠麻を、もう一度だけ強く抱きしめた。  今夜だけは。  まだ、離さなくていい。  そう思うことだけを、自分に許した。

ともだちにシェアしよう!