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第49章 今日で終わり

 和真は、カクテルをゆっくり飲んでいた。  時々グラスを眺めては、また口をつける。 「そんなちびちび飲まなくても、また作るって」 「もったいないから」 「酒に言う台詞じゃないだろ」 「ユウが作ったからね」 「……そういうのいいから」 「何が?」 「何でもない」  悠麻は背を向け、洗ったグラスを棚へ戻した。  少しだけ顔が熱い。  気に入ってくれた。  それだけで十分だった。      *  二十三時を回った頃、和真が腕時計を見た。 「ユウ」 「ん?」 「今日は先に帰るね」  悠麻は振り返った。 「え、もう?」 「うん」 「珍しいな」 「ちょっと用事があるから」 「今から?」 「うん」 「ふうん」  何の用事だろうとは思ったが、それ以上は聞かなかった。  それより、ちょうどいい。  今日は閉店後、予約していたケーキを取りに行く。  和真が先にいなくなるなら、見つからずに持って帰れる。 「じゃあ、あとでな」  和真が悠麻を見る。  ほんの少し、間があった。 「……うん」 「何?」 「何でもないよ」 「変なの」  和真は残っていたカクテルを飲み干した。  空になったグラスを、カウンターへ置く。 「ごちそうさま」 「また作ってやるよ」 「うん」  コートを羽織り、扉へ向かう。 「じゃあね、ユウ」 「おう。あとで」  扉が閉まった。  悠麻は空になったグラスを手に取る。  きれいに飲みきってある。  それが嬉しくて、口元が緩んだ。      *  閉店後、予約していたケーキを受け取った。  二人で食べきれるくらいの、小さなものだ。  甘さは控えめ。  和真なら、たぶん好きだと思う。  箱を傾けないように持って、マンションへ帰った。 「ただいま」  返事はない。 「あれ」  玄関に和真の靴もなかった。  まだ用事が終わっていないらしい。 「先に帰るって言ったくせに」  文句を言いながらキッチンへ向かう。  むしろ好都合だった。  冷蔵庫を開け、ケーキの箱を奥へ押し込む。 「よし」  これなら見つからない。  明日、昼飯のあとにでも出そう。  どんな顔をするだろう。  カクテルのときみたいに、素直に喜ぶだろうか。  そんなことを考えながら、シャワーを浴びた。      *  寝室へ戻っても、和真はまだ帰っていなかった。  スマートフォンにも連絡はない。 「……遅えな」  ベッドへ入り、いつものように片側を空ける。  和真がいないと、妙に広く感じた。  メッセージ画面を開く。 『何時に帰る?』  打ってから、消した。  昨日あれだけ騒いだばかりだ。  今日はやめておく。 「早く帰ってこいよ」  スマートフォンを枕元へ置いた。  明日は何を作ろう。  冷蔵庫にはケーキがある。  昼飯を食べて、それから二人でケーキを食べる。  昨日のことだって、そのうち聞けばいい。  急ぐ必要はない。  眠気が少しずつ降りてくる。  和真が帰ってくれば、きっと目が覚める。  そのときに文句を言おう。  先に帰るって言ったくせに、遅いって。 「……久世さんの嘘つき」  小さく呟いて、目を閉じた。  隣は空いたままだった。  それでも悠麻は、何も心配していなかった。  明日になれば、また隣にいると思っていた。

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