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#3 夢魔

『ミャア』 コンクリートで固められた海。 港に群がるほわほわのネコと、つやつやのウミネコ。 『ミャアミャア』 普段は打ち寄せる波の音しかしないのに、船が入ると、とても賑やか。 ネコたちに雑魚をやった彼が、こちらに気付いて手を振ってくれる。 決してその丸々と太ったヒラメが欲しいわけではない、ないのだけど。 彼との接点はこんなものしかないので、何度だってここに来てしまうのだ。 『ミャア』 …… 「……夢」 それも酷く懐かしいやつを見てしまった。 アビシェラと身体を重ねた後だと、この腑抜けた頭が少しだけ張り切ってしまうのだ。 「ミャア、ミャア」 夢の残りのような鳴き声に、身体を少しだけ起こす。 ベッドによじ登れず、不貞腐れたようにシーツを齧るモフモフが転がっているのが見えた。 床を指先で叩いて合図すると、こちらに気付いたようだ。 「おはよう、早起きさんだね」 まるで乳を催促するように、指に吸い付いてくるピンク色の毛玉。 何も与えてやれないのが申し訳なくて、せめて優しく抱き上げてやる。 「ちょっと待ってね……アビ、起きて」 隣で眠り込むアビシェラは珍しいので、そっとしておいてあげたいのだけど。 時折噛まれる指先がボロボロになるのは少し困る。 ゆさゆさと、その靭やかな張りのある腹を揺すって彼を起こす。 「……安眠妨害されるんが一番嫌いじゃ言うたろうが」 「お腹空いてるって、ごはんあげて」 「俺の話聞いとる?」 「うん、シャワーの後に部屋に戻らなかったアビが悪い」 ムスッとしたまま上半身を起こした彼の手が、オレの上に乗った淫魔の首根っこを掴み上げる。 「ンミャア」 「良かったね、ご飯だよモフモフ」 「そろそろ名前付けてやりや」 頬に、額に、鼻先に、薄い唇を落としてゆくアビシェラ。 その度に、だらりと伸びていた尻尾がピンと伸びて、嬉しそうに揺れる。 「じゃあ、モフにしよう」 「そんなでええの? 1000年後もモフじゃぞ」 「この子はそんなに生きれないよ、たぶん」 「ほうね……、これだから生物は」 ぽい、と返却されたモフ。 視線を何度もオレとアビに行ったり来たりさせながら、何かしら考えているようだ。 「オレも生き物だからね?」 「お前らの種族はバグみたいなもんじゃろ」 「まあね……どれくらいあげたの?」 「1回分の射精程度」 「もしかしてコスパ悪い?」 「効率求めるなら直接精液舐めさせろや」 「いくら淫魔でもそれはちょっと抵抗あるし、ほらこんなに可愛いのに」 ふわふわの耳を機嫌よく立てたまま、ベッドの上でくるくると回ったモフはそのまま腹を見せて寝転がる。 警戒心の欠片もない。 「淫魔って人型だと思っとったわ」 「アビの故郷はみんな人型なの?」 「いや、そういう訳じゃないけどな……人を誑し込むなら人型のほうがええじゃろ」 柔らかな腹毛をアビシェラの手がわさわさと擽っても、モフは嬉しそうに身体を捩るだけ。 鮮やかな若竹色の瞳が、日差しを受けてキラキラと輝く。 「でもアビも十分誑し込まれてるよ」 「……ルルとまぐわう切掛を与えてくれたんじゃけぇ、蔑ろにはできんわな」 アビシェラはそう言って、徐にキスを寄越してくる。 悪魔な彼の唇は、いつもより、ほんの少し暖かい気がした。 next

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