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第2話 隣の部屋の姉は腐女子です

「僕って、そんなに魅力ない?」 大きめのトップスの袖を余らせた諒馬があざとく上目遣いを狙って、ウルウルと俺を見つめてくる。可愛いよ、すごく。俺の部屋着に包まれたその上から、今すぐに抱きしめたいよ? 「やめろって」 俺は諒馬を払いのけるように、目を逸らして、手持ち無沙汰に倒れた椅子を元に戻した。 背中から、しつこく諒馬が追いすがって迫ってくる。早く諦めてくれ。 こんなに近くに居るのに、すげない態度を取るのは、こっちだって相当に辛い。 「前はさ、そんなじゃ、なかったよね?」 「何が?」 「僕がなかなか猫から戻れない時は、タマタマ揉み揉みしてくれたよね」 「そんなのっ、一回だけだろっ!」 振り返りそうになる首を無理やり正面に向け、喉の奥から絞り出すように声を張り上げる。 あれは、まだ諒馬が思春期の入り口にいた頃――。 一番症状が不安定な時期だった……。 家に居づらかったのか、俺の部屋に入り浸りだった諒馬は、「男になんか成りたくない」と言って、枕に顔を埋めて泣くこともあった。 当時の俺には、その戸惑いや恐怖のすべてを理解してやることはできなかった。ただ諒馬は格別に可愛いかったから、その姿が変わって失われていくのは、胸が締め付けられるほど惜しい気がした。 だけど、男にしか見えなくなった今も、諒馬が可愛いのは変わらなかった。 「諒馬は、あの時……嫌だった?」 俺の部屋で何日も猫に成ったまま、学校にも行けず過ごす諒馬に、俺は――。 焦りと、どうにかして元に戻してやりたい一心で、黒い毛皮に覆われた小さなタマ袋を揉みしだいたのだった。 なんとかなれ、と願って。 すると、あっという間に諒馬は人間の姿に戻った。俺は手を止めることが出来なかった。諒馬の朝顔のつぼみのようなアソコが興奮して、先走りの透明な蜜を滴らせていた。 初めての発情期を迎えた猫はこんな風になるんだろうか?と思う程に、諒馬は生々しい色香をまとってシーツに転がり、エロティッシュに俺を誘った。 俺は諒馬の男性器をパクリと口に含んだ。不思議と汚いとは全く思わなかった。 俺は、他の場所には一切触れずに、諒馬の男性器だけを夢中で刺激し続けた。何度も、何度もイカせた。 その度に諒馬は身体をビクビクと震わせ、変声期途中の小さな掠れた声を、ひっくり返して鳴いた。 あの後はどうしたっけ? 限界まで達して放心状態になった諒馬の目が涙を湛えて真っ黒なビー玉みたいに潤んで見えたことだけが、やけにハッキリと脳裏に焼き付いている。 「イヤじゃないよ!………良い思い出…」 そうだったのか。諒馬は、あの時の混乱の夜をそんな風に消化していたのか。 「良さそうには、見えなかったけどな……」 あれから結局、諒馬の猫化が安定することはなかった。今年の春に、専門学校に入る前まで、諒馬は通信制の高校に通うしかなかったのだ。 身近でその不安定さを見てきたからこそ、俺は諒馬が気がかりで、心配で、どうしようもなく可愛くて仕方がない。 「あれは、ビックリしただけで……今なら、もっとちゃんと……」 諒馬の足の間がもじもじとし始める。 ヤバい。いい感じになってきた、コイツすぐにスイッチ入れて来やがる! 俺はバッとドアを開けて、諒馬を強引に部屋の外へと押し出した。 「とにかくっ、今日は帰れ!」 「えーっ、冷たーい!」 と諒馬が名残惜しそうに靴を履こうとした、そのタイミングだった。 俺の隣りの部屋の扉が勢いよくバタンと開いた。 「諒馬くーん、来てたんだ!」 出たっ、俺と諒馬の間のいい雰囲気を、ぶち壊す腐女子がっ!普段はマイペースでめったに干渉してこないくせに、こういう時だけ鼻が利く。 「サエ姉さん、お邪魔してます」 サエはリラックスした恰好の上にストールを羽織り、面白がるように涼しげな目を細めている。 「諒馬、ソイツに挨拶なんかしなくていいぞ。」 「もう帰っちゃうの?せっかく来たんだから、もっとゆっくりしていけば良いのに」 「あ、でも、ご迷惑になっちゃうから…」 さっきまでゴネていた諒馬が急にしおらしくなる。コイツが我儘を言うのは、俺に対してだけなんだ。 「ねぇ慎、送って行ってあげないの?」 「まさか、隣だろ」 あーっ、もう。送るつもりだったのに。 本当は送り届けて、帰り道に暗がりで少し手でも繋ぎたいくらいなのに、そんな本心をこの女に読まれるのだけは死んでもごめんだ。 しょんぼりと肩を落とした諒馬がトボトボと隣の家まで歩いていき、玄関の前で一度立ち止まると、こちらを振り返って小さく手を振った。 諒馬の姿が完全に家の中に消えたのを確認した瞬間、サエが本性を現した。隣りの部屋で聞き耳を立てていたのだろうとしか思えない内容の口をきいてくる。 「信じられない!あんな可愛い子が、懐いて来てくれてるのに冷たくするなんて、よく出来るわね………私には絶対無理だわ………。」 「サエ、ウザい。引っ込めよ」 「はっあーっ?少なくとも実の姉に対してよりかは優しく扱ってあげてるみたいね!」 サエは「ふふん」と面白そうに鼻を鳴らしながら、ひらひらと手を振って自分の部屋へと引き返していった。 何なんだ一体、俺に接待でもしろってか、無茶言うなよ! この家は諒馬が思ってるよりも、ずっと声が響くんだぞ。どうして俺が、課題で死ぬほど忙しいのに、バイトまでしてると思っているんた。 はぁ、好きだと言ってしまったら、歯止めが効かなくなりそうだし。なんか、諒馬のあの時の声……大きそうな気がするんだよな。 早く金が貯まったら、こんな実家なんか出てってやるーー‼︎

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