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第3話 移ろう季節の中で
一限目の授業がない朝、アラームが鳴る前に目が覚めた。
布団の中で伸びをしながら、俺は今日の朝食は何にしようかと、まだぼんやりする頭で考える。
冷蔵庫のドアポケットに、オレンジマーマレードの瓶と新しい明太子フランス風のチューブがあったはずだ。
妙に腹が減っている。甘いものではなく、しょっぱい系が食べたい気分だ。
明太子フランス!そう心に決めてから、ゆっくりと起き上がった。
廊下の突き当たりのトイレに向かった。
便器の前でスッと力を抜くと、ジャーッという勢いのよい水音が長々と続いた。
「ふぅ…やれやれ」
サエはまだ寝てるし、父さんと母さんは出勤したあとみたいだ。
誰もいないリビングで、余裕がある朝の特権として、ドリップコーヒーを淹れ、明太子フランスペーストを塗った熱々のトーストにザクザクと嚙りついた。
「うま……」
リビングのガラス戸の外、手入れされた生垣の向こうに、洗濯物を干す誰かの人影が見えた。
諒馬はもう学校に出てるはずだし、あのシルエットは体格の良い諒馬の父さんのものではない、……とすると。
俺は慌ててトーストを口の中に放り込んでしまうと、サンダルをつっかけ庭に飛び出した。
「――律人さん、帰ってたんだ!」
「ただいま、慎くん。おっと、からたちの棘に引っかけないように気をつけて」
生垣の向こうから、穏やかな声が返ってきた。
諒馬の兄である忍さんは、二年前に就職して一人暮らしをしていた。
けど月に一回くらいはこうして実家に顔を出しているみたいだ。
「この前、帰ってきた時は、まだ花が咲いてたんだけどな……」
律人さんは、手にしたハンガーを物干し竿にかけながら、季節の進みを惜しむように、小さな青い実を付けたからたちの木を見回した。
その時、ちょうど律人さんが手に持っていたのは――。
「あ、それ、俺のスエット!」
「え?どういうこと?」
思わず、大きな声が出てしまった。律人さんは驚いて手を止めると、手の中の洗濯物を両手でしっかりと引っ張って広げて、まじまじと眺めた。おもむろに自分の体に当てて丈を測る。
「……なるほどね。諒馬のにしては、やけに丈が長い。
もしかして、また、諒馬が慎くんに借りてたのかな?」
律人さんが観察するような鋭い目を俺に向けた。
――しまった、口が滑った。律人さんは頭の回転が早い人なのだ。そこで気付いてしまう。
「諒馬のやつ、まだ…、治ってなかったんだね」
わーっ、家を出た律人さんに心配をかけないよう、最近も度々猫化している事は言わないで、と諒馬に口止めされていたのに。
俺の動揺と弟の隠し事の真意を読み取ったのか、忍さんはクスリと儚い笑みを浮かべた。
こうなったら、ずっと疑問に思っていたことを全部聞いてしまおう。俺は開き直ることにした。
「……律人さん。俺、ちょっと聞きたいことがあるんです」
「うん、分かった。……って、今日はこれから学校?
だったら駅まで歩きながら話そう。
すぐ支度するから、ちょっとだけ待ってて」
「はい、ありがとうございます」
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