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第4話 幼馴染のお兄さんは近づきがたいクールな美人

通勤ラッシュの波が引いた住宅街の細い路地を、俺と律人さんは並んで歩いていた。 律人さんは隣りを歩いていると心が浮き立つような綺麗な人だ。 アスファルトに近所の人が撒いた打ち水の跡が残っていた。 スタスタと歩く律人さんの凛とした横顔を眺めていると、俺はどうしても諒馬と比べてしまう。 サラサラの柔らかな色素の薄い真っ直ぐの髪、きめの細かい白い肌、細い首と腰。 諒馬と似ているようで、少しずつ違う。 諒馬の髪はゆるいカーブの癖がついているし、諒馬は二重で大きな目で、律人さんはまつ毛が長くて涼しい目をしている。何よりもまとっている雰囲気が違う。 兄弟で役割分担したみたいに、諒馬は我儘で甘えたなのに対して、律人さんは抑制が効いていて責任感が強い。 古い日本家屋の門の脇に置かれた、黒光りする大きな睡蓮鉢を、小さな男の子が夢中になって覗き込んでいる。水面に浮かぶ緑の丸い葉の隙間に、黄色っぽいメダカがツィーっと泳ぐのが見えた。 「もう、おしまいよ」と母親が服の裾を引いても、男の子は「やだ、まだ見るの!」と踏ん張っている。 「…可愛いね」と律人さんが小さく呟いた。 今は比較的柔らかい表情を浮かべている。律人さんは昔、外で見かけると、全然知らない人みたいに他所よそしくて、取り尽くしまがなかった。 薄い氷の壁を作っているみたいに冷たくすら感じた。 それは、感情が激しく落ち込んだり乱れたりすると、猫に変化してしまう、猫成り一家の長男が身に付けた、処世術なんだと思う。 本当は温かい気持ちの持ち主が、自衛のためにクールに振る舞うのは、もの凄く疲れそうだ。 「丁度、駅前のスーパーに行こうと思ってたんだ」 「今日は、この後もう帰るんですか?」 律人さんは小さく首を横に振る。 「いいや、買い物したら、また実家に戻るよ」 律人さんに気を使って貰っているので、俺は単刀直入に切り出した。 「前に、大人になったら、もう猫にはならないって聞いた事があるんですけど……」 「それなのに、どうして諒馬がまだ猫になってるのかって?」 「はい」 「それは、大人になったら感情をコントロール出来るって意味だよ。年齢や、身体の成長の話じゃないんだ」 「つまり、諒馬の精神年齢が……大人じゃないっていうことですか?」 「本当にゴメンね。うちの弟が迷惑かけて。甘やかしたのがイケナかったのかな?諒馬は今まで自己抑制する必要がなかったんだね」 「それは、俺も……」 思い当たる節が有りすぎる。何だかんだで諒馬が猫になると、必ず俺が撫でさすって、安心させて元の姿に戻してやっている。 アイツは自力で人間の姿に戻れないのだ。それは、凄く不便で、諒馬の生活を制限していると思う。 「俺がいなければ……」 そうすれば、諒馬は嫌でも自分で自分をコントロールする術を身につけるんだろうか? 律人さんは道路の先の消失点を遠い目で見ながら言った。 「それは、どうかな?あんまり急ぐものじゃないよ。 とりあえず、諒馬が帰ってきたら俺からバシッと言っておくから」 「アイツ…、そんなの聞きませんよ」 「ふふっ、そうだね。右から左ってやつだ」 と律人さんと俺は顔を見合わせて笑った。

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