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第6話 だから僕は猫にならなくちゃ
「なぁ、まだ?
………今日、猫化が治るのやけに遅くないか?」
慎の困惑した声が、上からふわりと降ってくる。
僕はあぐらをかいた慎の膝の上にすっぽりと収まり、ふかふかの可愛い猫体を存分にモフらせてやっている最中だった。
けれど、いつものような変身解除の兆しは一向にやってこない。むしろ心のどこかで、「まだ人間の姿に戻りたくない」と強くブレーキを踏んでいる自分がいる。
「俺、何かした?」
慎は苦笑いを浮かべながら、その指先でリズミカルに僕のあごの下を撫でて、機嫌を伺うように目を覗き込んできた。
「ニャーン……ン」
(律兄に告げ口したでしょう?!)
毛が逆立っていつもより少し太くなった尻尾で、慎の太ももをパシパシ叩いて、僕は不満をアピールした。
「もう、いい加減手がダルいんだけど。
……休憩していい?」
「ミャアーーー!!ミャア、ミャアウ!」
(ダメーーー!!まだ全然足りない!)
かれこれ一時間、ずっと僕(猫)をモフり続けていた慎がパンパンになった腕にもう片方の手を当てて押さえていた。
慎が弱音を吐くのは珍しい。可哀想だから、別の動きにして使う筋肉を変えてあげるよ!
僕は慎の膝を蹴って、床の上にドン!と着地した。慎の正面でへそ天で寝そべると、パッカーンと大股開きでタマタマをご開帳した。
さぁ、モフるがいい!
「って、なんだ諒馬。まだ根に持ってるのかよ。それはしないって言ってるだろ」
「ミャーー!ニャーー!」
(僕は慎と結婚するんだもん!プロポーズして!)
(………って、言えたらな)
僕は猫の姿のままゴロンと転がって大股開きの大胆なセクシーポーズを繰り出し、慎を誘惑してみる。こんなの人間の姿の時では絶対に出来ない。
慎は、猫に成った僕しか見てくれない。
人間に戻ると目を合わせてくれない。まず第一声が「服を着ろ」「戻ったなら帰れ」だ。
慎はきっと猫好きなんだ。
だから、僕は猫に成って会いに行く。少しでも構って欲しくて。
中身の僕には興味が無いのかもしれない……、そう思うだけで、猫になれる。
片想いの痛みが僕の猫化の動力だ。
「ははっ…何言ってんのか、分かんねーよ」
慎はふっと息を吐くと、足の先で僕の無防備なお腹をぐりぐりと軽く突いてきた。
(――っ /// きゃあああああーーっ /// ソコ、だめっ、くすぐったい///)
僕は堪えきれずに一目散にベッドの陰へと退散した。
「は、ははははっ、なんだよお前」
慎は床の上でひっくり返りそうになって声を上げて笑っている。
「フーッ、フーッ……!」
僕は心臓をドキドキさせて、ピクピクと耳を立て物陰から顔だけをひょっこりと突き出した。
その時、慎に脇を抱え上げられて、身体がフワリと宙に浮いた。
慎はそのままベッドにどさりと腰を下ろすと、僕を自分の目の高さに掲げ持って、ゆっくりと視線を合わせた。
「このまま、ずっと猫から戻らなかったら……
………俺が飼ってやろうか?」
その、思いのほか真剣な低い声に、胸の奥が焼けるように熱くなった。
(ほんとう?…慎……)
その言葉が、聞きたかった。
慎の両手に抱え上げられた状態で、ぐんぐんと猫の体重が増していく。ふかふかの黒い毛皮が後退し、代わりに柔らかな肌が現れた。
「んっ、危なっ……」
急激な変化にバランスを崩した僕を、慎が抱き止めてくれた。気付けば僕は、ベッドに腰掛けた慎に跨るような状態で、肌を密着させていた。慎の胸に顔を埋めて、恥ずかしくて赤く熱を帯びた頬を隠した。
「あの、慎……今の、本当……?」
あまりの嬉しさに瞳がうるんだ。
僕は期待で胸を高鳴らせ、そっと顔を上げた。
「お前なぁ……、服を着ろー!
戻ったなら、さっさと自分の家に帰れ!!」
「えーーーっ!?ひどいっ!!」
やっぱり慎は人間に戻った僕から目を逸らした。
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