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第9話 初めて猫になった日 (Side 諒馬)

初めて猫に変化したのは、この街に引っ越してきて間もない頃だった。 母さんが病気で亡くなって、父さんは思い出を根こそぎ封印するみたいに、それまで住んでいた家を売ってしまった。 転校したばかりの小学校、馴染みのない家。 そして、気がついた。家の中で笑って、喋っていたのは、母さんだけだったんだって。 もともと、父さんは無口で無表情だ。それまでは、ずっと母さんが言葉の足りない部分を埋めて家庭の温かさを保ち続けてくれていたのだ。 母さんという精神的な支柱を失った途端、僕らは息が詰まるほどの重苦しい沈黙に沈み込んでいた。 その日も、僕は泣きじゃくって律兄を困らせていた。小学生の僕の背中を、中学生だった律兄が優しくポンポンしてくれていた。 父さんは仕事でいなかった。 部屋が寒い気がする、背中にゾクゾクと悪寒が走った。 「っ、な……!?」 律兄が引きつった声を上げた。 突然、僕は床に叩き落とされた。 訳が分からなかった。 おぞましい物でも見たかのように律兄の顔が恐怖に歪んでいた。目は絶望にくり抜かれた空虚な穴になり、そこに映るのは弟ではなく恐怖の対象だった。 次の瞬間、律兄が大きく両手をあげて、僕を捕らえようと襲いかかってきた。 僕は自分の意識とは関係なく軽々と身をかわし、驚くべき跳躍力で開いていた窓にぴょんとジャンプして、外へと逃げ出した。

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