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第15話 古い色ガラスの光のトイレで、苛むようなキスの罠から抜けられない

猫カフェの男子トイレで、スッキリした後の僕は手を洗っていた。 ここにも、窓や扉にはめ込まれたガラスに、ポピーやデイジーなどの野の花をモチーフにした気泡の入った古いステンドグラスがあしらわれている。 うねるような曲線で、ポピーのくすんだサーモンピンクの儚い花びらが形作られた、歪んだガラスを通ってレトロな切ない色をした光が、狭い室内を照らしていた。 アンティークステンドグラスの無駄使いじゃないだろうか? ガラン――、とデイジーの模様の扉が開いて……。 入って来たのは慎だった。 「あっ、慎も今から…?僕はもう行くけど……」 最後まで言い終わるよりも早く、急に慎に強い力で抱きしめられていた。 追い詰められた腰に陶器製の洗面台の角がゴツンと当たって痛い。 「んっ…!」 「ごめん、痛かったか? でも、離さない」 「慎、どうしたの?慎のこと放ったらかしにしてたから、怒ってる?」 「……怒ってない」 僕を捕えるその瞳に、マグマのような独占欲が揺らめいて見えた。 「諒馬の友達作りに協力しようって、ずっと黙って見てたけど……。 やっぱり無理だった。 他の奴と、俺より楽しそうに笑うなよ……」 「そんなっ、ただ話してただけで……っ」 「諒馬は俺のことが好きなんだろ? ……キスしようか?」 「ええっ、こんな所でっ!?」 (僕たち、まだ一度もそういう事したことないよね?) 慎の唇と僕の唇とが、触れるか触れないかギリギリのところまで迫っていた。僕が微かに震えただけで、くっついちゃいそう。 「嬉しいんだけどっ、なんか変だよ!ちょっと!……どうしちゃったの慎?」 「………ずっと怖かったんだ。 諒馬が俺から離れていくのが……」 切羽詰まったような、慎の必死な声が僕の耳に届いた。 (本当は、そんなに不安だったの……?) ますます、僕を抱きしめる慎の腕に力が入る。身体が浮いてしまいそうだ。 本当は僕の方がずっとキスして欲しいと思ってたのに。……僕はだらりと力を抜いてこの身を委ねた。 「こうして欲しかったんだろ?」 慎は腕を僕の首に回して、もう片方の手で服の上からずっしりとした僕の玉袋を絡め取るようにグッと鷲掴みにした。 「………っ!」 刺激の強さに、僕は爪先立ちになって身体をのけ反らせた。背中に洗面台の冷たい出っ張りが容赦なく食い込む。 ついに、僕の唇が奪われた。 慎が貪り味わうように、唇の角度を何度も何度も変えていく。 乱暴に侵入してきた熱い舌が、口の中をめちゃくちゃに掻き回す。 予想外の嵐の中に投げ出されたみたいな、僕を苛(さいな)み蹂躙するような激しいキス。 初めての場所を侵されながら、玉袋も同時に刺激されて、僕は頭が真っ白になって慎に呑み込まれていった。 「はぁ…はぁっ……はァっ」 「諒馬、もっと俺だけを見て……」 頭がとろけ切った僕はそのすべてを許し、受け入れていた。 ――ガタン、と入口の古い扉が開いた。 顔を覗かせた嶋くんが、固まる。 密着した僕たちの体、熱い息、状況を察した嶋くんの頬がみるみる真っ赤に染まり、申し訳なさそうに、 「お邪魔しました……」 と言って、後ずさりして、男子トイレの戸をそっと閉めようとした。 (わぁん!そうだよね、そうなるよね!) 「は…離して………」 人が入って来たというのに、慎は唇こそ離したものの、僕の腰を逃げないようにガッシリと抱え込み、自分の腰に強く押し付けたままだ。 こんな、繋がってるみたいな体勢、人前で見られたら………恥ずかしい。 「……イ…ヤだ。慎」 扉を閉めかけていた嶋くんが、僕の拒否の言葉を聞いて、ピタリと止まった。 「一個だけ、聞かせて。……無理矢理ではないんだよね?」 この場のピリピリとした重い圧力の中で、嶋くんは踏み止まり、僕の答えを待っている。 ここで、これ以上流されたらイケナイ気がする。 僕は声を絞り出した。 「………助けてっ」 僕の小さなSOSを聞き取った瞬間、嶋くんはスゥーッと深く息を吸い込んだ。 「わあああああああーーーーーっっっ!!!!!」 彼の華奢な体からは想像もつかないような爆音が響き渡る。 ステンドグラスのガラスがビリビリと振動して、「なっ……!?」と虚をつかれた慎の腕の力が一瞬、緩んだ。 「ボーっとしてないで、行くよ!」 すかさず嶋くんが僕の手首を強く掴み引っ張った。 呆気に取られた慎の前から、嶋くんは驚くほど凛々しい顔で、僕を外へと連れ去ったんだ。

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