16 / 21

第16話 白バラの秘密の部屋と追跡者

息を乱して逃げ込んだ公園の中で、僕らは三方を白いつるバラのフェンスに囲まれた木製のベンチに、ようやく辿り着いた。 重なり合う青葉と白いバラの花が、まるで小さな緑の小部屋を作り出して、通りかかる人の視線をさりげなく遮ってくれる。 「ごめん」 さっきまでの凛々しい表情が一転して、嶋くんは眉尻を下げ、小さく手を合わせて謝った。 「余計なこと、しちゃったかな……? 諒馬がいつも話してた、振り向いてくれない好きな人って、あの人のことだよね?」 「ううん、嶋くんが助けてくれなかったら、自分じゃ止められなかったから……」 (公共のトイレでおっ始めてた、なんて事は流石に無かったよね?でも、分かんないや) 嶋くんは僕と同じで、男の人が好き。でもカミングアウトして恋愛をしたことが無いと言っていたから。 あまり免疫がないのかも知れない。 あんな場所でも好きな人にキスされて許しちゃってる、とんでもなくハシタナイ所を見られてしまった。 (もう、穴があったら入りたいよ〜!) 「あっ」 僕の気恥ずかしさを一瞬で吹き飛ばすみたいに、嶋くんが慌てた声をあげた。 「そうだ!猫カフェのお代!」 「それだったら、慎がきっと払ってくれてるよ」 真面目で律儀な嶋くんに毒気を抜かれて、僕はそう応えた。 あんなに強引に迫って僕を追い詰めた慎だけど、その辺については折り紙つきで信用できる。 置き去りにされた後、きっと一人で静かにお会計を済ませていたであろう慎の姿が目に浮かんで、「ふふっ」と口元が緩んだ。 「僕、いくらだったか覚えてから、諒馬から返しておいてもらえる?」 嶋くんは財布を取り出して、言った。 「あ、良かった。小銭ちょうど有った!」 嶋くんは僕の手を取って、お金を握らせると、ため息をついた。 「はぁー、僕、幼馴染くんに誤解されちゃってないかなぁ?」 「ない、ないっ!僕らネコ友達だし!」 (いくらなんでも、慎がそんな勘違いをすることはないだろう) 「でも、嶋くんって、いざとなったら度胸があるんだね。すっごくカッコ良かった!」 「え、そう?よかった。出しゃばりすぎちゃったかもって心配だったんだ。 あんな思い切ったことするなんて、自分でもビックリだよ……」 今日は嶋くんの色んな面を知れて、面白かった。 繊細で優しげに見えて、いざとなったら僕の手を取って逃げちゃうとこや、お金の貸し借りには几帳面で、返すまでに間を空けないところとか。 白バラの甘い香りが漂う、緑の木漏れ日の中で、僕たちは肩を並べ、ほっこりと温かい気持ちに浸っていた。 その時、重い呼吸の音と足音が迫っていた。 「……ハァ、……ハァ、……ハァ……っ」 ぬうっと上から黒い影が差し込んでくる。 「やっと見ぃつけたぁ………諒馬……っ」 あちこち走って探し回って来たのだろう。慎が大粒の汗を滴らせ、身体から立ち上る熱気で、ゆらゆらと湯気が出ているのではないかと思えるほどだった。 「「ぎゃあああーー!!」」 僕と嶋くんの悲鳴が重なって、僕たちはベンチからぴょんっと飛び上がって驚いた。

ともだちにシェアしよう!