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第17話 幼馴染じゃなくなっちゃう
「あんまり、心配させるなよっ……」
肩を大きく上下させ、息を切らせながら、慎が濡れた額の汗を手の甲でぬぐった。
吐き出す熱い息の中に、僕を必死で探し回っていた時間が滲み出ている。
慎の目は、底の知れない深く静かな水面をたたえていた。吸い寄せられるようにその奥を覗き込むと、どれほど僕を案じていたのか、切実な想いがそのまま流れ込んできて、……胸が痛くなった。
「………ごめんなさい、慎」
僕が絞り出すように呟くと、隣で静観していた嶋くんが口を開いた。
「諒馬、僕…そろそろ行かないと」
空気を察した嶋くんが気を利かせて、僕と慎を二人きりにしようとしてくれているのが分かった。
「あの、帰り道わかる…?」
「ふふっ」
と嶋くんは肩を揺らして笑った。
「大丈夫、諒馬ほど箱入りじゃないから」
そうして、くるっと慎の方へ向き直って堂々と言い放った。
「諒馬は確かに可愛いと思いますけど!僕も可愛がられたい側ですから!変な誤解、しないでくださいね」
「……はぁ?」
険しい顔をしていた慎が、ぽかんと毒気を抜かれている。
「そういうわけだから、お邪魔虫は去るね!」
嶋くんは満足そうにうなずくと、ひらひらと手を降って軽やかに去っていった。
「なんなんだ、アイツは……」
残された僕と慎は、呆然と嶋くんの背中を見送った。
慎がドカっと白バラのフェンスに囲まれたベンチに腰を下ろす。
僕もその隣りにそっと身を寄せて座った。
慎のため息と白バラの甘い香が混じった空気の中で、僕たちは深く背もたれに体を預けた。
走り回った後の体温の熱さと、慎特有の汗の匂いが、僕の肌まで届く。
「歯科技工士の学校、楽しいか?」
慎は行き交う人の流れを眺めた横顔のままで、問いかけた。
「うん、友達も出来たし!楽しいよ」
「諒馬は昔っからプラモのパーツ削るの上手かったからな」
「よく、慎に仕上げ手伝ってもらってたよね」
「静かに作業に集中できる環境の方が、きっと諒馬には合ってると思う。
だけどさ、……なんで相談してくれなかった?
事後報告じゃなくて、諒馬が悩んで考えて形にならない時から、関わらせて欲しかった……
俺は自分のこと、もっと諒馬の内側にいる人間だと思ってた」
寂しそうな慎の言葉を聞いて、僕はようやく理解した。
慎が怒っていたのは、僕の心の一番深い場所に自分は置れていないと思ったからなんだ。
「……ごめん。ごめんね、慎の気持ち全然分かってなくて」
僕はベンチの座面の上に置かれた慎の大きな手に自分の手を重た。
「僕いつも慎に頼ってばっかりだから、大人になったって認めてもらいたくて、必死で背伸びしちゃってただけなんだ。」
慎は僕の手を握り返すこともせず、瞬きも忘れ、ただ頭のなかで僕の言葉を反芻しているようだった。
「僕はこれから先、嶋くんにも他の誰にも僕が猫成りだって言うつもりはないよ。僕が完全に信頼して、猫になった姿を見せれるのは慎だけだよ。
僕がゴロゴロ甘えたいのも、ワガママを言いたいのも世界中で慎だけなんだ。
僕は、慎だけのニャンコなんだから」
慎がようやく、こちらに目を向けてくれた。恥ずかしいけど、ここで視線を逸らしちゃいけない。僕は逃げずに踏み止まって、言葉を重ねた。
「それだけは、分かってくれるよね?」
「ああ」
「今日、父さん夜勤でいないんだけど……。
うち来る?」
「………行く」
押し殺した低い声でそう応えた慎と視線が熱く絡まって、この時に、慎は過保護で優しい幼馴染ではなくなったのかもしれない。
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