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「確かに、四十過ぎのおじさんに、しかも教授に、可愛いはおかしいですね」
「だから、離してくれ」
「でも、そう思ってしまうのだから、仕方ないでしょう?」
「黒瀬くん……、頼む……」
「嫌ですよ。俺のことで頭いっぱいのくせに。そんな貴方を今手放すはずがない」
だから可愛いんですよと、彼がまた笑った。それから、首筋にキスを落とす。んっ、と身を捩ったとき、そのまま床に押し倒されてしまった。倒れた床の冷たさに思わず声が漏れる。
彼は親指の腹で、ゆっくりと私の唇をなぞった。
「ねぇ……先生、」
「黒瀬くん、」
「この後、何すると思う?」
「……っ、ん、」
彼の唇が私のに触れた。ちゅっと軽いリップ音がし、すぐに離れる。けれどすぐにもう一度重ねられた。私のカサカサの唇を彼が舌先でぺろりと舐める。
「先生、リップ塗らないんだ?」
「塗らない……っ、」
「ふぅん。でもカサカサなところがまた、先生らしくていい」
「……やめっ、」
さっきよりも激しく重ねられる唇に、全身の力が抜ける。ただでさえ入らない力を全て持っていかれてしまった。抵抗する前に唇の境目からするりと彼の舌が侵入し、好き勝手に遊び回る。床に肘をついて体重を支えながら、彼が指先で私の髪の毛をいじった。
「……ふぁ、」
自分のものとは思えない漏れるこの声を、口の端から零れ伝って落ちていく唾液を、どうすればいいのか分からない。
「ねぇ、先生……、舌だしてください」
「……っ、」
「もう少しだけ、出して」
「はぁっ、」
「ん、よくできました」
彼の要求に逆らいたくても勝手に口を開けて舌を出してしまう。まるでこうされるのを待っていたかのような、自分の体の反応に戸惑いを隠しきれない。
気持ちに反して体は素直すぎじゃあないか。完全に彼を求めてしまっている。今この瞬間を、彼にこうされていることを、嬉しくて幸せだと、そう感じてしまっている。
「先生、」
「ふ、」
「もっと絡めて、ね?」
「ふぁ、」
溢れ出る唾液は彼が舌先で掬い上げ、もう一度私の口の中へと押し込んでくる。顎を舐められ、体がびくりと跳ねてしまった。彼が、そんな私を見て可愛いと笑う。
「ねぇ、先生」
「……なに、」
「俺が何考えてるか分かる?」
彼が、耳元でそう囁いた。それから耳朶を甘噛みされ、体中がゾクゾクする。私はそれに耐えながら、目をきゅっと瞑って必死に首を横に振った。
知るはずもない。分かるのは、膨らんだ私の期待だけ。彼を求めてしまう自分がいることを、思い知らされてしまっただけだ。
「心理学は行動を見るって、先生がそう言ったんじゃあないですか」
「……っ、」
「ねぇ先生、考えてみてくださいよ。俺が貴方を床に押しつけキスしたその意味を……、俺の気持ちを、」
「知ら……な、い」
「……嘘つきだね、先生」
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