6 / 10

第6話 普遍的なふたり

「…俺は…」 _______ベータだ。 ああ。どうして。 その言葉を聞いた瞬間、一気に視界がモノクロになった。 秋とはいえ残暑が厳しいのに、寒い。 いや、わかっていたはずなんだ。 この世の大半がベータで、アルファやベータなんてクラスに1人いるかどうか。 僕はただの友達に、何を期待していたんだろう。 幼かった自分には、この感情が何なのか分からなかった。 今でも分からない。 僕にとってのヒーローだからか。 なぜか分からないが、晴海がアルファであると信じていた。 そうであって欲しかったんだ。 その後、塾か何かを理由に自分の性別は言わないまま無我夢中で帰った。 家に着いて、ようやく手元に握りしめられたままの封筒の存在に気がついた。 強く握り締めすぎたのだろうか。 端の方はクシャクシャ。 震える手で封を切る。 そこには予想通りの現実。 (たった1%を引くなんて) それ以降のことは正直、覚えていない。 翌日、晴海からいつも通りに話しかけられた時も、目を合わせられなかった。 動揺を隠し通す自信がなかった。 大雑把なようで機微に聡い彼は、僕の心情の変化にもすぐに気がついたのだろう。 視線を感じることはあっても、無理に話しかけるようなことはしなかった。 それが心苦しくて、尚更元の関係には戻れない気がした。 とにかく、その頃にはもう都心の中学へ入学することは決まっていて、そのことすら言い出せないまま気まずい関係だけが続いた。 卒業式の日、ついに碌な別れの言葉すら交わせなかった。 逃げるように引越しをし、晴海とはもう二度と再開できないのだろうと覚悟していたが、ずっと当時のことを後悔するとともに、謝りたい気持ちでいっぱいだった。 ______________________________ 「引っ越したこと、後から知ったんだ」 晴海が目元に憂いを滲ませて言う。 当たり前だ、晴海は僕のことを少なくとも大切な友達の1人として扱ってくれていた。 そんな彼の気持ちを勝手な感情で踏み躙ってしまったのだから。 「本当にあの時はごめん。 せめて晴海には伝えるべきだったのに」 いいんだ、とでも言うように晴海が首を振る。 あの時、態度を変えてしまった理由は言わなかった。 言ってもきっと困らせてしまうだけだと分かっていたから。 会いたかった、だなんてどの口が言えたんだろう。 勝手に晴海に期待して、勝手に裏切られた気持ちになって。 どこまでも最低で幼かった自分に幻滅する。 気持ちの清算はすることができたんだ。 もうこの人に会わないほうがいい。 あの時封じ込めた気持ちが、溢れ出てまた傷つけてしまわないように。 美しい思い出のまま終えられるうちに別れよう。 「話せて良かった。そろそろ行くよ」 帰ろうとして椅子の上の鞄に手を伸ばす。 その手を晴海が掴む。 あの時とは違う、大きくて血管が浮き出た大人の手で。 「待って」

ともだちにシェアしよう!