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第15話 因縁の相手(晴海side)
この数年間、俺はいろんなものを諦めてきた。
その内の一つが剣道だ。
小学2年生から始めた剣道は、当時学年で1番背の高かった俺には向いてたようで、練習すればするほどメキメキと上達していくのが楽しかった。
団体戦では大将という重役を任せてもらえたし、たくさんの大会で賞をもらった。
親も師範も俺に期待した。
俺の居場所はここだと思った。
全てが変わったのは、中学に入学した頃だ。
この頃、風宮という親友を失った悲しさをバネに、もっと強くなってやろうと意気込んでいた。
そんな時、剣道教室にある1人の男がやってきた。
それが俺の因縁の相手、九条司だ。
隣の中学に通っていて、入学と同時に引っ越してきたらしい。
九条が剣道を始めて一ヶ月後、初の練習試合をすることにした。
相手は教室内で1番強かった俺だ。
初心者なんかに負けるわけがない、軽く二本勝ちしてやろうと思っていた。
それなのに。
試合が始まってすぐのことだ、気付かない内に面を入れられていた。
いつ打たれたのかと分からないくらい速かった、頭の頂点がズキズキするくらい重い一撃だった。
焦って挽回しようとしても、相手にならなかった。
負けたことが一回もないわけじゃない、天狗になっていたわけじゃない。
それでもプライドを持って必死に練習していた、屈辱的だった。
試合が終わって師範が言う。
「さすがアルファだ。飲み込みが早いな」
アルファ…?
バース性のせいで俺は負けたのか?
アルファとベータ、たったそれだけの違いで、俺の数年間の積み重ねは無かったことになるのか?
悔しさで奥歯を強く噛み締めた。
九条は当たり前とでも言いたいのか、涼しげな顔をしていた。
なんでこんな奴に俺は負けたんだ。
悔しかった、無知だった。
みっともなくて消えたくなった。
それから中学3年間、何度も勝負したが、結局九条が教室を卒業するまで勝つことはなかった。
九条が練習に来なかった日も必死に練習した、それでも無理だった。
俺は結局、何者にもなれなかった。
唯一の特技でさえ、突然やってきた天才に打ち負かされた。
生まれ持ったものの前では、努力も夢も無意味だと知った。
そのことに気がついてから、何もやる気が起きなくなった。
頑張って報われないのが怖かった。
そんな自分が嫌で、友達とふざけ合ってる時も、心から笑えなかった。
そして、それは今も。
「去年のリベンジ、果たせよ」
チームメイトが背中を叩いて鼓舞する。
こんな俺に期待してくれている人がいる、それでも応えられる気がしない。
「始めッ!」
開始の合図がされ、一歩前に出る。
面金の隙間から、切れ長で鋭い目と彫刻のような鼻が見える。
相変わらず何を考えているか分からない整った顔だ。
しばらくの間、剣先をジリジリとくっつけて牽制し合う。
刹那、九条が前に出て
「コテェッー!」
小手を打たれる。
相変わらず鈍器のように重たい一撃で、思わず手元から竹刀が離れそうになるのを食い止める。
なぜその速さでそんなに力強く打てるんだ、化け物か?
「小手アリ!」
「二本目ッ!」
気を取り直して、竹刀を構え直す。
どう動こうか、頭で必死に考える。
その隙を狙われたのだろう。
「メェッーーン!!」
九条が俺の頭を目掛けて竹刀を突き出す。
俺より少しだけ高い背丈が、もっともっと大きく見えて圧倒される。
相打ちする度胸も、躱す余裕もなかった。
できないと諦める心が、体を強張らせているせいか?
審判の旗なんて見なくても結果は分かりきっていた。
「勝負アリッ!」
今年も負けた、呆気なく。
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