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第4話 アキと姫宮准教授
何万人って人が『アキ』の痴態を見てる。
動画をアップするのは数日に一回。不定期に上がってる。
あの口元の傷が見えたのは一回だけ。力が抜けて倒れ込んだ時に映り込んだ程度で、基本的に顔は一切出すことがなかった。動画をまだ全部は見てないけど、遡ってけっこう見た。
別に男は好きじゃないし、恋愛対象は普通に女の子だ。
今はフリーだけど。
でも、だからって男に走ったわけじゃない。
ちゃんと変わらず女の子が恋愛対象のまま。
ただ、『アキ』の動画だけは――。
「それでは、今日はこの前の講義の続きからになります。短編を持ってきましたので、配ります」
そう言って、姫宮准教授が今の時代にわざわざ紙にプリントアウトした短編を持ってきた。
「あの、すみません。一枚取ってもらって、そのまま隣……もしくは後ろの方に回してもらってもいいですか?」
「……はい」
受け取ったのは、俺。
一人最前列に座ってたから。
みんな、この講義は『ラッキー』とばかりに睡眠時間の補充に当ててる。そんな奴らは大体席を後ろから座っていく。ちゃんと現代文学をまなびたい奴も基本的に最前例にはやってこない。
大体前から三列目、四列目、そこから最後尾の列までが埋まっていた。
だから、最前列にいる学生が珍しいのか、姫宮准教授は目をパチパチと瞬きをして、傷痕のある口元を緩ませた。
目が合った。
って、向こうは俺のことなんて知らないだろう。講義は毎回五十人以上が参加してるし、出欠は毎回紙で提出してる。参加しているのかを確かめたり、出欠を点呼でとったりはしない。
姫宮准教授は最前列に突然座った「熱心な」学生に少し驚きながら。
「それでは、みなさん、短編を受け取りましたか?」
昨日見た動画で自分の乳首を抓っていた指先で、その短編が書かれた紙をひらりとさせて、学生に見せた。
「みなさん受け取ったと思います。余ったものは空いているところに置いておいてください」
それから、昨日のは派手に喘いでいた。甘ったるい声だった。イヤホンで聴いてると、耳元で喘いでいるみたいで。
「では、えっと……」
少し……興奮、した。
ちゃんと男の喘ぎ声なのに。
『アキ』のは、ひどく甘ったるくて、身体の芯がジリジリと焦げるように熱くなる。
「読みますね」
そして、始まった姫宮准教授の朗読だけが講堂に響いてる。あまりに静かで、きっとみんなもう寝始めてるんだろう。最前列で周囲の人が全員背後ってこともあるんだろう。俺だけが聴いているような気がした。昨日の動画のふしだらな声とは違う澄んでいて、清潔感溢れるその声に目を閉じて、俺だけが、耳を傾けた。
「佐久くぅん」
「……」
えっと。
「今日、最前列にいてびっくりしたぁ。講義受けてないのかと思ったぁ」
「あー、うん」
ユア、だ。この人の名前。
「なんで、最前列?」
「……」
姫宮准教授の顔、ちゃんと近くで見たかったから。
「あ、ねぇ、ユアちゃん」
「! なになにっ?」
「現代文学の准教授の名前知ってる?」
「? さっきの? 姫宮、だよ。だからお姫様」
「下は?」
彼女も知らなかった。一瞬、うーん、って考えたけど、わからなくて。でも、確か文芸批判、読書会サークルの顧問をやっていて、そのサークルに入っている子がいるから、その子に聞いたらわかるかもって教えてくれた。
へぇ。
そうなんだ。
読書会のサークル顧問をしてるんだ。
へぇ。
「そっか、ありがと」
「!」
それは知らなかったから。
お礼に今日一番の笑顔を彼女に向けた。
彼女はパッと表情を明るくさせて、なんでかぴょんって跳ねた。
「それじゃあ、ユアちゃん、また」
「うんっ、またね!」
読書会サークルか。文芸批評とかなら、論文の作成とかにも活きるでしょ。
へぇ。
「……」
そっか。
相当な怪我でしょ。
あの傷痕は。
てか、痛そう。
あんなところに痕が残るくらいの傷なんて。
けっこう古いものなのかな。
キレーな顔なのにもったいない。
あと――。
『あぁ、ンっ』
やっぱピンクが派手すぎて、そこにばっか目がいく。だから、こんな下品なピンク色なのかな。
『ア、んっ、おっきぃっ』
ピンクのディルド。
最近のお気に入りなのか、過去動画には出てこなかったそのアイテムは、ここ最近の動画では一番のお気に入りのオモチャ。
『アキ』がそれを夢中になって、ケツでしゃぶってる。
『すごいっ、ここ、好きっ、奥のとこ、をっ、これで、ゴリゴリって』
今日、短編を朗読してた声が。
夜には、こんな必死に喘ぎまくってる。
姫宮准教授の口から卑猥な単語が連発されてる。
『あ、イクっ、イクイクっ、これ、イッちゃうっ』
――男はその電話をとにかく取った。彼女からのものだろうと。
『あ、乳首も抓ったら、だめぇっ』
――だから、今の彼はなりふりなど構っていられないのだ。
『アキ』がピンク色のディルドを床にくっつけて、そこの上で下品なくらいに腰を振りたくってた。片手はバランスを取るために床に置いて、もう片方の手で自分の平べったい胸を弄ってから、二本の白い指で乳首をぎゅっと抓った瞬間。
『あっ、イッ、クッ……っっっっっ』
息を止めて、白を床に撒き散らした。
『あ……まだ……イクぅ』
最後まで貪欲にオモチャにしゃぶりついてた。
――彼女に答えなければと、必死なのだ。
白いシャツに紺色のスラックス、ニットベストを着てた。
清楚な准教授の衣装で普段隠している細い身体を何度も跳ねさせて、ピンク色のディルドに夢中になってた。
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